The Ipanemas / The Return Of The Ipanemas

評価 :4.5/5。

 2001年作品

 これは、イパネマスの復帰後最初のアルバム。新生The Ipanemasの実質的ファーストアルバムだ。ライナーノーツを参考に、曲名と演奏者の情報を記しておく。曲名は簡単に調べられるが、演奏者の情報は、見付けにくいので貴重な情報になるはずだ。

Music

  1. Sacunda
  2. Birinight
  3. Sacunde
  4. Icarai
  5. Balaio
  6. A Saudade E Que Me Consola
  7. Chorinho A
  8. Berimbaco
  9. Batecoxa
  10. Verao
  11. Miragem

Musicians

  • WILSON DAS NEVES : Drums / Vocals / Percussion / Lead vocal on Track6
  • NECO : Acoustic Guitar / Vocals / Cavaquinho track 4
  • JORGE HELDER : Bass / Vocals / Guitar track 4
  • MAMAO : Drums / Vocals / Guitar track 1
  • DUDU LIMA : Bass
  • PAULO WILIAMS : Trombone
  • DON CHACAL : Percussion
  • ZEZINHO : Percussion
  • MARVIO CIRIBELLI : Acoustic Piano

 ライナーノーツを見て解ることは、まず最初にネコの表記がNécoからNecoに変ったことである。そして、全ての曲でネコ(neco)がギターを弾いているのではないということだ。track 1(Sacunda)でギターを弾いているのはMamaoことIvan Contiだ。そして、track 4(Icarai)ではネコがカヴァキーニョ(Cavaquinho、ウクレレに似たブラジルの民族楽器)を弾く代りにJorge Helderがギターを弾いている。Icarai終盤で聞える余韻の少ないナイロン弦ギターに似たトレモロ奏法で弾かれている音がカヴァキーニョの音なのだろう。

 track 6(A Saudade E Que Me Consola)でリードボーカルをとっているのは、御大、ウィルソン・ダス・ネヴィス(wilson Das Neves)だ。track 8のBerimbacoでは彼の演奏するビリンバウ(ブラジルの民族楽器)の不思議な音色を存分に楽しむことができる。track 10(Verao)では、トロンボーンののびのびとした音色が心地よい。この曲で聴ける生音のピアノを演奏しているのはマルヴィオ・シリベッリ(Marvio Ciribelli)だ。

 Birinightで聴けるギターの音色が心地よい。ライナーノーツの情報から判断するとこれを弾いているのはネコなのであろう。ゆったりしたテンポにのせた爽やかな旋律で、聴いていてリラックスできる。この曲ではネコが主役だ。秀逸である。同じギターはSacundeでも聴くことができる。ウィルソン・ダス・ネヴィスの方がたくさんのアルバムを出していて有名なのではないかと思うが、ネコのギターも存在感では負けていない。

 このアルバムのもう一つの聴きどころBerimbacoである。先にも書いたが、他ではなかなか聞くことのできないビリンバウの演奏を堪能できるからだ。長いビリンバウの独奏の後で、突然始まるギターの和音と気怠い感じの歌声、心地よいトロンボーン。曲の後半ではギターの伴奏でビリンバウが聴ける。これも大変良い。ほんと、他では聞けない音楽なのである。

 Sacundeで聴けるトロンボーンの野太い音も曲にあっていて良いと思う。この楽器はSacundaでも聴くことができる。A Saudade E Que Me Consolaの冒頭でのびのびとした旋律を奏でているのもパウロ・ウィリアムス(PAULO WILIAMS)であろう。この人も、このアルバムになくてはならない味を出している人だ。この曲(A Saudade E Que Me Consola)で聴けるウィルソン・ダス・ネヴィスの歌声も味があって惹きこまれるところがある。

 今回、ブログのために調べたので、このアルバムの演奏者を読み込んだのは自分自身はじめてのことである。ライナーノーツには、音楽を楽しむためのヒントが記されていることに、今更ながら気づかされた。こうして調べておけば、ここで演奏しているミュージシャンの他のアルバムを探して聴いてみるという楽しみにつなげることもできる。イパネマスの他のアルバムでも同じ人が演奏しているかどうか、確認することも可能になる。これまでは、ただイパネマスのアルバムとして漠然と聴いていたのだが、こうして演奏者を確認して新しい音楽の楽しみ方に気付いたような気がしている。

 このアルバムで聴ける音楽も、私の知る限り他に類を見ないものだ。ラテン、サンバ、ボサノバ、ジャズ、そんな音楽の香りが感じられるのだが、それらのものを単純に混ぜ合わせたものではない。最初のアルバム(Os Ipanemas)からはボサノバの影響を色濃く感じたが、このアルバムではボサノバの匂いは薄れている。二枚のアルバムの間によこたわる四十年近い音楽活動が、二人の音楽性に変化をもたらしたのだろう。

 イパネマスの音楽は独自性の高い素晴しいものだと思う。これはワールド・ミュージックに関心があるようなら、必ず聴いてみるべき素晴らしいアルバムである。

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Os Ipanemas / Os Ipanemas

評価 :4.5/5。

1975年作品

  1. Consolação
  2. Nanã (Tema De Ganga Zumba)
  3. Se Chegou Assim
  4. Kenya
  5. Zulu’s
  6. Clouds (Nuvens)
  7. Adriana
  8. Garôta De Ipanema
  9. Jangal
  10. Berimbáu
  11. Congo
  12. Java

 Afro Bossaのレビューを書くために調べていて、このアルバムが安価に購入できる云ことに気付き、つい購入してしまった。以前調べたときは、結構高価で手が届かなかった記憶があるのだ。まだ、あまり聴きこんでいないのだが、感想を記しておくことにしたい。

 The Ipanemasとの違いであるが、古いライナーノーツには、ミュージシャンがきちんと書かれていない。楽器を演奏している写真の下にファーストネーム(と思われる字)が書かれているだけだ。それらの文字と写真から判断すると、Os Ipanemasは次のようなミュージシャンがメンバーだったと思われる。

  • Marinho:Bass(コントラバスを持っている)
  • Astor:Tronbone(トロンボーンを吹いている)
  • Wilson:Vocal and percussion(ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbáu)を持ってマイクの前にいる)
  • Néco:Guitar(クラシック・ギターを弾いている)
  • Rubens:Drums and percussion(ドラムスの前にすわってカウベルを叩いている)

 このアルバムを聴いて感じることは、ウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)とネコ(Néco)の存在感が圧倒的だということだ。ライナーノーツを見ると、この二人は五分の二に過ぎないように見えるが、ネコのギターとウィルソンのビリンバウの音がこのグループのサウンドを決定づけているようだ。The Ipanemasを聴いている方なら、絶対に買った方が良いアルバムである。

 このアルバムでバーデン・パウエル(Baden Powell)の曲を2曲、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)のイパネマの娘を収録している。バーデン・パウエルがボサノバかというと個人的に少し疑問もあるのだが、ネコはボサノバの影響を色濃く受けていると思っている。このころのネコのギターは、かなりボサノバ的だ。

 全体的にリズムが強調されている曲が多い中にあって、異色ともいえるのが「Clouds (Nuvens)」である。爽やかなギターの音色が聴いていて心地好い。後半に入るトロンボーンも曲を引き立たせてて良い。

 「Jangal」と「Berimbáu」ではビリンバウの音色を存分に楽しむことができる。これは、原始的な構造だが非常に魅力的な音色を出す楽器である。「Berimbáu」はバーデン・パウエルの曲だが、バーデン・パウエルのアルバムに収録されているこの曲では、この楽器の音を聴くことはできない。このブラジルの民族楽器をイメージして作曲した曲だということなのだろう。確かにこの曲のバーデン・パウエルのギターはビリンバウの演奏方法を模倣しているようだ。

 さて、入手が困難なアルバムだが、機会があれば手に入れてみたいアルバムである。

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ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbau)

 私はイパネマスの曲を聞くたびに、不思議な金属的な音、言葉で表現するとビョンビョンとしか形容しようのない奇妙な音を出す楽器が何なのか判らなかった。ずっと、スチールドラム、スチールパンのような楽器かと思っていたのだが、この不思議な楽器の音に集中して聴いてみると、どうもそれらの楽器とは違うらしい。

 そして、今日調べていたら判りました。この奇妙な音は、ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbau)のものです。

 これは、イパネマスのウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)がビリンバウを演奏している動画です。ずっと不思議だったのですが、インターネットで検索していたら判りました。いやあ、インターネットって、素晴らしいですね。そして、動画の力って本当に素晴らしい。百聞は一見に如かず。動画で確認しなければ、こんなことは調べる方法が思いつかない。もし、インターネットなしで、イパネマスのアルバムに入っているこの不思議な音色がどんな楽器によるものか調べようと思っても、おそらく調べることはできなかったに違いない。

 これで、Os Ipanemas、The Ipanemasの楽曲を聴くときの愉しみがひとつ増えました。

 しかし、不思議な楽器ですなあ。そしてウィルソンは素晴らしいミュージシャンですな。

The Ipanemas / Afro Bossa

評価 :5/5。

2003年作品

Music

  1. Suspeita
  2. Sertão
  3. Sereno
  4. Espraiado
  5. Música Profissional
  6. Chorinho B
  7. Bambuí
  8. Bosco
  9. Aqui Dá Tudo Certo
  10. Seu Dario
  11. São Pedro da Aldeia
  12. Afro

 まず最初に言っておこう。このアルバムは素晴らしいので、是非にも聴いてみてもらいたい。ワールド・ミュージックを聴く人なら、必ず聴くべきアルバムである。以上終り。それだけで良い。

 が、それでは紹介にならないので、このアルバムについて少しく記してみることにしたい。

 表題がアフロ・ボッサとなっているが、いわゆるボサノバを期待して購入すると期待外れになるだろう。このアルバムを聴くと、ラテンの要素もボサノバの要素も感じるけれども、どれとも違う彼ら独自の音楽に昇華していると言ってよいだろう。

 イパネマスはウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)とネコ(Neco)のグループ。ウィルソンはパーカッショニスト。ネコはギタリストだ。

 Wikipediaの記述によると、ウィルソン・ダス・ネヴィスは重要なスタジオ・ミュージシャンでサラ・ヴォーン、トゥーツ・シールマンス、エリス・レジーナと共演しているようだ。Wikipediaには、もっとたくさんのミュージシャンと共演したと書かれているが、ここでは私が知っているミュージシャンだけをピックアップしたのである。いやはや、こんな大物と共演しているのなら、彼の実力は折り紙付きというものだ。

 ネコのことは良く判らないのだが、同様に素晴らしいスタジオ・ミュージシャンだと勝手に思っている。

 彼らは、Os Ipanemasの名で1964年に最初のアルバムを出し、残念ながらその後は活動を停止してしまった。二枚目のアルバム「The Return of the Ipanemas」を発売したのが2001年。そして、私の最高に気に入っているこの「Afro Bossa」を発売したのが2003年である。この活動休止期間の間は、二人とも先に挙げた大御所達のためにプレイしていたのだろう。

 長すぎる活動休止期間が惜しまれるところである。

 あのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ( Buena Vista Social Club)のアルバムと映画の発売、公開が1990年代の最後の数年だから、イパネマスの活動再開も彼ら老ミュージシャンたちの活躍に触発されてのことだったのかも知れない。

 スタジオ・ミュージシャンとして、それだけのキャリアを重ねた彼らが録音したアルバムだから、特定のジャンルに収まらないのも無理はない。

 再結成後というべきか活動再開後というべきかは分からないのだが、イパネマスは2001年以来数枚のアルバムを発表しているのだが、私はこのアルバムが最も好みである。中でも、打楽器の面白みを最高に楽しめる最後の曲「Afro」が秀逸である。キューバの音楽を聴いていると、アフリカ土着の音楽そのものに聞える楽曲に触れることがある。この曲はそれらともまた違うアプローチなのだが、しかししっかりとアフロになっている。より洗練されていると言うべきだろうか。ブラジルの民族楽器ビリンバウの響きが楽しめる「Espraiado」も素晴らしい。独特の疾走感のある曲調だ。

 その他の曲もどれも高い水準の曲ばかりで、流して聴くとあっという間にアルバムを聴き終えてしまう。凄いアルバムである。

 この記事を書くためにAmazonで調べていたら、このグループの最初の作品「Os Ipanemas」が販売されているのを見つけて購入してしまった。最近、Amazon Music Unlimitedで音楽を聴くことが多くなってCDを買う枚数が激減したのだが、最近また増え始めている。このウェブ・ページを書き始めたからかな。

The Ipanemas / Afro Bossa

評価 :5/5。

2003年作品

 このCDを初めて聴いたとき少し驚いた。他の音楽と比較するのがむずかしい、独特な、ジャンル分けの難しい、しかし爽やかで寛げる優しい音楽がスピーカーから流れ出したからである。アルバム・タイトルから「ボサ・ノバ」か、と思えばそうではない。リズムは「ラテン音楽」に近いが、メロディーが違う。このCDではまさに「アフロ・ボッサ」としか表現のできない独自の音楽世界が創り上げられているのである。現在の私はそう結論付けてゐる。

 このCDは全体的に水準が高いのだが、特に12曲目が凄い。打楽器の音の洪水。アフリカ風の歌声。スチールパンの音。全てが混沌として混り合い、まさに「アフロ」というべき楽曲に仕上がっているのである。

 休日の午後にコーヒーを飲みながら、庭でも眺めつつ聴きたい、そんな作品である。

 このCDは現在は新品が流通していないようなので紹介するのをためらったのだが、やはり、純粋に自分が好きな音楽を紹介したいと思うので今回はこれを掲載することにした。ザ・イパネマズのCDは他にも入手しやすいものがある。どれもよい出来だと思うので、入手しやすいものから試してみることも良いと思う。

(註)これは平成20年に発表した文章に一部手を入れたものです