Paco de Lucía / Siroco

 ジョン・マクラフリン、アル・ディ・メオラとのライブ・アルバムFriday Night in San Francisco – Liveを聴けば分かるが、パコ・デ・ルシア(Paco De Lucía)は、天才的なフラメンコ・ギタリストでありながら、「フラメンコ」の枠にとらわれない音楽活動で知られている。特に一時期Jazzに傾倒した。

 その多彩な活動を通して、スペイン南部アンダルシア地方の民俗音楽に過ぎなかった伝統的フラメンコ音楽を、現代に通用する音楽に変革し、世界に紹介したのもパコ・デ・ルシアであると言っても過言ではない。その意味でパコの活躍がなければビセンテ・アミーゴ(Vicente Amigo)も今のような形で聴くことはなかっただろうし、日本に沖仁が現れることもなかっただろう。

 シロッコ(Siroco)とは、地中海沿岸に吹く高温の南風のこと。1987年発表のこの作品は、そんなパコ・デ・ルシアの多彩な作品の中で、非常にフラメンコ色の強い作品に仕上がっている。「フラメンコ」が聴きたかった私は、このCDを初めて聴いたとき、「これだよ、これ」と思ったものである。

 ギターとパルマ(手拍子)で始まる一曲目のLa Cañadaは疾走感溢れる作品。パコ・デ・ルシアのギターが存分に楽しめる二曲目のMi Niño Curroはギター一本で演奏される抒情的な作品。以降、全曲「フラメンコ・ギター」が存分に楽しめる作品である。

 パコの唯一の欠点は作品をだすのが遅いこと。

 最新作はCositas Buenas。2004年の作品だ。

 そろそろ次の作品が出るのではないか、と思うのだが。

沖仁 / New Day to be Seen

 沖仁は日本人のフラメンコ・ギタリスト。ギター一本槍の伝統的なMusica Flamenca も作曲すれば、現代的編曲の「フラメンコ」も演奏する。Taka y Jin としての活動にも目が離せない。音楽的方向性としては、Vicente Amigo に近いと言えるだろう。

 このCDは沖仁の出世作。

 日本人だからという理由で、あまり期待をせずに手にしたCDだ。沖仁のギターは良いと思つたが、歌詞がスペイン語ではなく英語だったり、歌手の歌い方がフラメンコらしくなかったりと、「フラメンコらしくない」という理由で最初はあまり気にいらなかった作品である。
 が、何度か聞いて、伝統的フラメンコの枠に収まりきらない沖仁ならではの魅力に気付いてからは、一気に好きになった。

 音楽的方向性が、Vicente Amigo に近いと言ったけれども、決して Vicente の物まねではない。沖仁の音楽は十分に洗練されており、Musica Flamenca は沖仁の中で完全に咀嚼され、沖仁の音楽として再構築されているのだ。

沖仁 / Al Toque

沖仁の最新作。

 傑作New day to be seenの後、メジャーレーベルへ移籍して、前前作Nacimiento、前作Respeto、とNew Day to be Seenで確立したはずの沖仁らしさが失はれ、妙にポップな音楽性を指向して、方向性を見失っていたかのようであった。

 日本人として初めて、スペインで行われた「ムルシア・ニーニョ・リカルド・フラメンコギター国際コンクール」国際部門で優勝して、ようやく自由に録音できる立場になったということだろうか。9曲目のクラシック・メドレーは少々いただけないが、それ以外の部分はNew Day to be Seenの沖仁が帰ってきたかのようだ。

 伝統的なフラメンコ・ギターの曲とフラメンコのギター奏法を活かしながらも独自に解釈された楽曲が混在して、沖仁の世界がきちんと築きあげられている。

 お薦めである。