菅波ひろみ / 10YEARS

評価 :4/5。

2014年作品

Music

  1. Set Me Free
  2. You’re My Perfect Lover
  3. もう一度だけ
  4. 再生の灯火に -We’re Standing All Over Again
  5. Dreaming Child
  6. SING OUT!
  7. I Just Wanna Feel Alright!
  8. 汐騒の慕情
  9. MUSIK IS…
  10. Life Is Journey
  11. 季節はめぐって

 菅波ひろみを聴くようになったきっかけは、Fukushima Recordsでその歌声に触れたことであった。Fukushima Recordsは、東北の震災後に福島県内の企業と有志のミュージシャンが集まって作ったプロジェクトで(正しく説明すると少し違うかもしれないが、私の理解はこの程度である)、難波弘之の演奏が聴けることが購入の決め手だった。

 このプロジェクトから出ている5枚のアルバムのうち、「声に出して。」と「Vanilla」に菅波ひろみの曲が含まれていて、このシリーズのアルバムを何度も聴くうちに、ソウルフルな歌をうたうこの歌手をきちんと聴いてみたくなり、Amazon Musicで探してこのアルバムを聴くようになった。そして、私はそこに収録されている楽曲の魅力にとりつかれた。このアルバムを何度も繰り返し聴いた。彼女の良いところは、日本語で歌うところ。ロックも、フラメンコも日本語で歌うとまるで違う音楽ジャンルのようになってしまうことが多いのだが、菅波に限ってはそんなことはない。きちんとソウルミュージックになっている。魂の音楽だ。

 調べてみると、彼女は福島県いわき市の出身で、自身も被災しているらしい。音楽活動のかたわら、歌の指導をしているようだ。このアルバムには、震災を歌った曲「再生の灯火に -We’re Standing All Over Again」が含まれるが、被災した経験が、彼女の歌に深みを与えているのは間違いないだろう。

 菅波ひろみは素晴らしいシンガーだ。アップテンポの曲もバラードも高い歌唱力で歌いきって、危ういところは微塵もない。彼女の歌う曲は、アメリカのソウルミュージックの影響を色濃く感じさせるものが多いが、ソウルミュージックの単なる模倣ではなく、日本人ならではの何かが含まれているように感じる。楽器を演奏しているメンバーも水準が高く、アルバムをとおして安定した演奏を聴かせてくれる。コーラスも秀逸だ。

 演奏メンバーは次のとおり。

  • Keyboard :中道勝彦
  • Guitar :荻原亮
  • Bass&Band master、 Co-producer:江口弘史
  • Drums:白根佳尚

 1曲目の「Set Me Free」はエレキベースの印象的なリフレインから始まる乗りの良い曲だ。この曲を聴いただけでアルバム全体への期待が高まるだろう。菅波は日本語と英語とで歌っており、歌詞がわかるというのも本場のソウルミュージックにはない利点である。

 2曲目の「You’re My Perfect Lover」と5曲目の「Dreaming Child」では、荻原亮のギターが聴ける。これだけのミュージシャンを集めることができたのも、菅波の実力と言えるだろう。5曲目はスライドギターだ。こちらも味があってよい。「Dreaming Child」はファンキーで乗れる曲だ。

 3曲目の「もう一度だけ」は、しっかりしたミュージシャンの演奏にささえられたしっとりとしたバラードだ。「すり減った靴の底で、さみしさが音を立てる・・・・・・。」歌詞もしみじみ良いと思う。歌の間に入るキーボードのソロも私好みで、印象的だ。

 4曲目の「再生の灯火に -We’re Standing All Over Again」は哀しく美しい震災の曲だ。この歌詞は被災した人の思い謳ったものとして、現代日本に住む誰にも素直に受け入れられるものであろう。この曲もキーボードが秀逸だ。

 6曲目の「SING OUT!」は、タメの感じられるベースの旋律が印象的な、ファンクよりの曲だ。カッティングギターと、切れの良いドラムスも良い。悲しんでばかりはいられない。ファンキーだ。

 このアルバムの最後を飾る「季節はめぐって」は、抒情的なバラードだ。あからさまに歌詞には表れないが、季節の移り変りと美しい自然とを謳うこの曲にも、震災の影が指しているように感じてしまう。ルイ・アームストロングの「この素晴らしい世界(What A Wonderful World)」の歌詞に逆説的なものを感じるように。この曲のエフェクターをかけないギターの調べも良い。生のピアノ(に聞える音源)を使用しているのも良い。この曲で静かにこのアルバムは終る。