Eddie Palmieri / El Rumbero del Piano

評価 :5/5。

1998年作品

 これは、エディー・パルミエリ(Eddie Palmieri)の代表作ではないが、私にとっては特別な作品だ。それは、私が聴いた最初のエディー・パルミエリのアルバムがこれだったからである。

Music

  1. Sube (Tony Taño)
  2. Café (Eddie Palmieri/ Robert Gueits)
  3. Pas D’histoires (Eddie Palmieri)
  4. Malagueña Salerosa (Pedro Galindo/ Elpidio Ramírez)
  5. El Dueño Monte (Eddie Palmieri)
  6. Dónde Está Mi Negra (Eddie Palmieri)
  7. La Llave (Jesús Alfonso)
  8. Oigan Mi Guaguancó (Arsenio Rodríguez)
  9. Para Que Escuchen (Eddie Palmieri)
  10. Bug (Eddie Palmieri)

 二十年ほど前のことになるが、当時所帯を持ったばかりで金銭的余裕がなかった私は、図書館でCDを借りて聴くことが多かった。その、図書館で借りたCDの中にこのアルバムが含まれていたのである。借りたCDをパソコンに取り込んだから、今もこのアルバムはCDを所有していない。

 実は、エディー・パルミエリのアルバム(CD)は大量に所有しているので、このアルバムも当然手元にあると思っていた。しかし、この記事を書くためにライナーノーツを見ようと思って探してみると手元にない。どうやら、借りたCDから取り込んだデータがあるので、コレクションから漏れていたようである。この先、手に入れられなくなる可能性があるので、たった今Amazonで註文しておいた。

 エディー・パルミエリの作品としてはこれはそれほど重要性の高いアルバムではないかも知れない。このアルバムの他に、彼が新しい音楽ジャンルを切り拓いた記念すべきアルバムがたくさんある。そして、成功者である我が敬愛するエディーが、お気に入りのミュージシャンたちを集めて、いつものラテンアルバムを作成したのが、このアルバムなのだ。だが、音楽というのは重要な作品から聞かなければならないという決まりはないわけで、事実、私もこのアルバムでエディー・パルミエリを知って、今や大ファンになっているわけだ。

2019年4月12日ブルーノート東京にてエディー・パルミエリのコンサートの前に

 註文したアルバム(CD)が手元に届いたので、演奏者を記載していきたい。このアルバムは曲ごとに演奏しているミュージシャンが異なり、全曲通して演奏しているのはエディー・パルミエリだけではないかと思うくらいだ。ライナーノーツには曲ごとに演奏者がズラリと書かれていて、これをまとめて記載するのは大変な作業である。作曲者は冒頭の曲名の後に括弧書で記しておいたので参考にしてもらいたい。

 というわけで、私の知っているミュージシャンに限って、どの曲で演奏しているか、歌っているかを記すにとどめたいと思う。

 まず、著名なジャズ・ミュージシャンの曲をラテン音楽として演奏したライブ・アルバムを多数出しているトロンボーン奏者、コンラッド・ハーウィグ(Conrad Herwig)が参加している。全曲とおして演奏しているのはエディー・パルミエリくらいと書いたばかりだが、ライナーノーツをよく見てみると彼も全曲でトロンボーンを演奏していることが判った。エディーのお気に入りのミュージシャンのようである。

 ヴォーカルはエルマン・オリベイラ(Hermán Olivera)(1、2、4、6、8、)とウィチー・カマーチョ(Wichy Camacho)(3、5、7、9)の二人。このうちエルマン・オリベイラはブルーノート東京でのライブで、その歌声を何度か直接聴いている思い出深いヴォーカリストである。長身の彼は、マラカス(というのだろうか)を振りながら、のびのびとした声で歌う素晴しい歌手であった。自身の名義のアルバムも何枚か出している。

 「Oiga Mi Guaguanco」でトレス(Tres)でソロを弾いているのはネルソン・ゴンサーレス(Nelson González)だ。エルマン・オリベイラの「アディオス、ネルソン・ゴンサーレス」という声を聞き取ることができる。彼は「Café」でもトレスを弾いていると書かれているが、その演奏を聴き分けることはできなかった。「only background」と書かれているから、目立たないのであろう。この人の演奏もブルーノート東京で何度か聴いている。とても几帳面な感じの小柄な方である。

 最後の曲「Bug」ではBryan Lynchもトランペットで参加している。このアルバムの参加ミュージシャンについては、Discogsのページが詳しいので、興味のある方はご覧いただきたい。ただ、手元にあるライナーノーツと全てを比べたわけではないので、その正確性を保証することはできないのだが。

 このブログを書くために手に入れたライナーノーツと日本語訳歌詞をみていて気付いた。アルバムについてくるこれらのアイテムには、音楽をより深く楽しむためのヒントが隠されているということに。これまでの私は音楽さえ聴ければよいと思い、ライナーノーツはろくに見もせずに一瞥しただけでしまいこんでいた。しかし、音楽を聴きながら参加ミュージシャンを知り、歌詞を理解することで、今まで聞き流していた音楽の新しい楽しみ方に気付かされたのである。何ということだ。このアルバムに初めて出会ってからおそらく二十年以上の間、私はその機会を手に入れようとしてこなかったのである。

 ライナーノーツをみながら音楽を聴くと愉しいのだ。若かった頃は、アルバムを買うとライナーノーツをなめるように読んで、アルバムも繰り返し何度も聴いたものである。アルバムを買うという行為が特別のものではなくなってからは、真剣にアルバムと向き合うというような聴き方を忘れてしまっていたようである。単純に多忙であるためであったのかも知れないが。

 さて、このアルバムの中で特に秀逸なのは「Café」だ。この曲はエディーの古いアルバム「Echando Pa’lante (Straight Ahead)」でも聴くことができる。古い録音ではもっと遅いテンポで味のある演奏であった。が、このアルバムでは、より切れのあるリズムと演奏を聴くことができる。エディーのピアノもより情熱的である。この曲に限らず、このアルバム全体に打楽器のリズムが洪水のように溢れている。どの曲を聴いてもリズムに浸ることができる楽しいアルバムである。

 「Pas D’histoiries」は非常にテンポの良い曲。歌詞カードを見ると「俺の音楽に文句を付けないでくれ。ルンバを続けてくれ。」という意味らしい。歌手はウィチー・カマーチョ。「Malagueña Salerosa」はディー・パルミエリの曲ではないが、この曲で聴けるエディーのピアノソロも秀逸である。「El Dueño Monte」で聴けるウィチー・カマーチョの声も印象的だ。エディーのソロも素晴らしい。叫びながら弾いているのがわかる大変な熱演である。ともかく、全曲通してあっという間に聴き終えてしまう。

 「Oiga Mi Guaguanco」は、冒頭で聴ける十秒以上にわたる打楽器だけの演奏が珍しくて楽しい。打楽器だけの部分が終ったあとの曲ももちろん愉しい。これは、エディーから見ても先達のアルセニオ・ロドリゲス(Arsenio Rodríguez)の曲である。

 アルバムの最後を飾る曲「Bug」はジャズと言って良いだろう。ベーシストはジョン・ベニテス(john benitez)に代っている。 音を聞くとダブルベース(ウッドベース)のようだ。前述のとおりブライアン・リンチが演奏に加わっているから、当然彼がソロを吹きまくっているのかと思ったら、リンチは第一トランペットなのだが、ソロは第二トランペットのTony Lujanが演奏しているらしい。思い込みというのは怖いものである。ジャズのアルバムも出しているコンラッド・ハーウィグはソロを演奏している。

 長々と書いてしまったが、エディー・パルミエリを聞いたことがない方におすすめのアルバムである。素晴らしいよ。このアルバムは。

Os Ipanemas / Os Ipanemas

評価 :4.5/5。

1975年作品

  1. Consolação
  2. Nanã (Tema De Ganga Zumba)
  3. Se Chegou Assim
  4. Kenya
  5. Zulu’s
  6. Clouds (Nuvens)
  7. Adriana
  8. Garôta De Ipanema
  9. Jangal
  10. Berimbáu
  11. Congo
  12. Java

 Afro Bossaのレビューを書くために調べていて、このアルバムが安価に購入できる云ことに気付き、つい購入してしまった。以前調べたときは、結構高価で手が届かなかった記憶があるのだ。まだ、あまり聴きこんでいないのだが、感想を記しておくことにしたい。

 The Ipanemasとの違いであるが、古いライナーノーツには、ミュージシャンがきちんと書かれていない。楽器を演奏している写真の下にファーストネーム(と思われる字)が書かれているだけだ。それらの文字と写真から判断すると、Os Ipanemasは次のようなミュージシャンがメンバーだったと思われる。

  • Marinho:Bass(コントラバスを持っている)
  • Astor:Tronbone(トロンボーンを吹いている)
  • Wilson:Vocal and percussion(ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbáu)を持ってマイクの前にいる)
  • Néco:Guitar(クラシック・ギターを弾いている)
  • Rubens:Drums and percussion(ドラムスの前にすわってカウベルを叩いている)

 このアルバムを聴いて感じることは、ウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)とネコ(Néco)の存在感が圧倒的だということだ。ライナーノーツを見ると、この二人は五分の二に過ぎないように見えるが、ネコのギターとウィルソンのビリンバウの音がこのグループのサウンドを決定づけているようだ。The Ipanemasを聴いている方なら、絶対に買った方が良いアルバムである。

 このアルバムでバーデン・パウエル(Baden Powell)の曲を2曲、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)のイパネマの娘を収録している。バーデン・パウエルがボサノバかというと個人的に少し疑問もあるのだが、ネコはボサノバの影響を色濃く受けていると思っている。このころのネコのギターは、かなりボサノバ的だ。

 全体的にリズムが強調されている曲が多い中にあって、異色ともいえるのが「Clouds (Nuvens)」である。爽やかなギターの音色が聴いていて心地好い。後半に入るトロンボーンも曲を引き立たせてて良い。

 「Jangal」と「Berimbáu」ではビリンバウの音色を存分に楽しむことができる。これは、原始的な構造だが非常に魅力的な音色を出す楽器である。「Berimbáu」はバーデン・パウエルの曲だが、バーデン・パウエルのアルバムに収録されているこの曲では、この楽器の音を聴くことはできない。このブラジルの民族楽器をイメージして作曲した曲だということなのだろう。確かにこの曲のバーデン・パウエルのギターはビリンバウの演奏方法を模倣しているようだ。

 さて、入手が困難なアルバムだが、機会があれば手に入れてみたいアルバムである。

【関連記事】

 

ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbau)

 私はイパネマスの曲を聞くたびに、不思議な金属的な音、言葉で表現するとビョンビョンとしか形容しようのない奇妙な音を出す楽器が何なのか判らなかった。ずっと、スチールドラム、スチールパンのような楽器かと思っていたのだが、この不思議な楽器の音に集中して聴いてみると、どうもそれらの楽器とは違うらしい。

 そして、今日調べていたら判りました。この奇妙な音は、ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbau)のものです。

 これは、イパネマスのウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)がビリンバウを演奏している動画です。ずっと不思議だったのですが、インターネットで検索していたら判りました。いやあ、インターネットって、素晴らしいですね。そして、動画の力って本当に素晴らしい。百聞は一見に如かず。動画で確認しなければ、こんなことは調べる方法が思いつかない。もし、インターネットなしで、イパネマスのアルバムに入っているこの不思議な音色がどんな楽器によるものか調べようと思っても、おそらく調べることはできなかったに違いない。

 これで、Os Ipanemas、The Ipanemasの楽曲を聴くときの愉しみがひとつ増えました。

 しかし、不思議な楽器ですなあ。そしてウィルソンは素晴らしいミュージシャンですな。

Eddie Palmieri / Vamonos Pa’l Monte

評価 :5/5。

1971年作品

Music

  1. Revolt/La Libertad Logico
  2. Caminando
  3. Vamonos Pa’l Monte
  4. Viejo Socarrón
  5. Yo No Se
  6. Comparsa De Los Locos
  7. Viejo Socarrón (Take 9)(Bonus Track)
  8. VP Blues(Bonus Track)
  9. Mixed Marriage(Bonus Track)
  10. Moon Crater 1 (Lyndsay’s Raiders)(Bonus Track)

Musicians

  • Eddie Palmieri Band Leader
  • Ismael Quintana Vocal
  • Bob Vianco Guitar
  • Jose Rodriguez Trombone
  • Alfredo Armentereos Trumpet
  • Ronnie Cuber Baritone Saxophone
  • Nick Marrero timbales Bongo
  • Eladio Perez Conga
  • Arturo Franquiz Claves, Chorus
  • Monchito Munoz Bombo

Spetial invited guest

  • Charlie Palmieri Organ (solo)
  • Victor Paz Trumpet (Revolt/La Libertad Logico)
  • Charles Camilleri Trumpet (Caminando)
  • Pere Yellin Tenor Saxophone (intro Yo No Se)

Chorus

Santos Colon, Justo Betancourt, Marcelino Guerra, Yayo El Indio, Elliot Ramero, Mario Munoz

 このアルバムのCDは二枚持っている。最初に購入したのはボーナストラックの収録されていないもの、そして二度目に購入したのがボーナストラックの収録されているリマスター盤である。ボーナストラックのうちVP Blues、Mixed Marriage、Moon Crater 1 (Lyndsay’s Raiders)はここでしか聞けないもので、私はこの三曲が聴きたいためにリマスター盤を購入したのであった。

 エディー・バルミエリ(Eddie Palmieri)は、50年を超えるその長いキャリアのなかで、さまざまな演奏スタイルを採用してきた。ジャズに近い曲、オーソドックスなラテン音楽、そして打楽器が強力にフィーチャーされた曲。彼はハード・ラテンというスタイルを作り出した人物であるとされているが、一貫して変らないのは、彼の演奏する音楽がいつもラテン音楽だということである。

 そして、その巨匠(マエストロ)Eddie Palmieriの代表作の一枚がこのアルバムなのである。もしもこの巨匠を知らなかったとしたら、このアルバムを聴いてみると良いだろう。

 最初の「Revolt/La Libertad Logico」から、リズムの洪水に飲み込まれる。ブラスが強力に吹き鳴らされ、カウベルとボンゴ、コンガの音が心地よい。まさにハードである。スペイン語の歌詞は全く解らないのだが、革命という題名から想像すると、物騒な内容のようである。La Libertad Logicoは直訳すると論理の自由という意味だから、思想の自由ということだろうか。

 アルバム・タイトル曲の「Vamonos Pa’l Monte」では、いつものピアノだけではなく、オルガン(ハモンド・オルガンか)を聴くことができる。この曲もノリのよい曲だ。表題の意味は「山へ行こう」。都会は雑踏だが、山へ行けば清々しい気分になるぜ、と歌われていると勝手に思っている。ここでオルガン・ソロを弾いているのはエディーの兄、チャーリー・パルミエリ(Charlie Palmieri)。兄弟でも、紡ぎ出される旋律はエディーのものと明確に異なることが判るだろう。

 「Comparsa De Los Locos」は最近のライブでも良く演奏される曲。表題は「狂気の外観」という意味。どういう意味? 確かにぶっ飛んだ曲です。ある意味凄い。Blue Note Tokyoで観たコンサートでもこの曲が演奏されていたと記憶している。

 しかし、エディー・パルミエリの楽団(EDDIE PALMIERI SALSA ORCHESTRAの名で登壇していた)の技術は素晴らしい。一発録りでアルバムが作れてしまうのではないかと思うほど完璧な演奏を聴かせてくれるのである。

 エディーの演奏をもう一度生で聴くことができるだろうか。いや、是非にももう一度聴きたいと思っている。

Miles Davis / Kind of Blue

評価 :5/5。

1959年作品

Music

  1. So What
  2. Freddie Freeloader
  3. Blue In Green
  4. All Blues
  5. Flamenco Sketches

Personnel

  • Miles Davis – trumpet
  • Julian “Cannonball” Adderley – alto saxophone (on1,2,4,5)
  • John Coltrane – tenor saxophone
  • Bill Evans – piano (on1,3,4,5,)
  • Wynton Kelly – piano (on 2)
  • Paul Chambers – double bass
  • Jimmy Cobb – drums

 私は休日に寸暇を得て音楽を聴きたい気分になったとき、このアルバムを選ぶことが多い。

 2千枚を超える所蔵のアルバムをすべて聴くには、毎日違うアルバムを聴いても6年間はかかる。だから、週末ごとに同じアルバムばかり聴いている余裕はないはずなのに、CDを一枚聴くだけの時間しかないような時になると、このアルバムを聴きたくなることが多い。

 コントラバスの深い響き、ピアノの煌めくような音色、寸分の乱れも感じさせないドラムスの紡ぎ出すリズム。そしてそれらの上で繰り広げられるマイルス・デイビスの控え目に演奏されるトランペットの調べと、それに比較すれば元気に吹き鳴らされるサクソフォン。

 言葉にするのは難しいのだが、私にとって完璧な時間がこのアルバムに封じ込められているようなのだ。どんなときもこのアルバムは私を裏切らない。聴いている途中で、今の時間をもっと価値あるものにするアルバムが別にあるのではないか(ほかのアルバムに浮気したくなるということです)と思うようなこともほとんどない。そう、このアルバムには完璧な時が封じ込められているのだ、私にとっては。

 発売当初の5曲についていえば、アルバムを通して素晴らしく水準の高い曲だけが収められていて、ハズレの曲がない。今のように、何度も録りなおして上手く演奏できた部分をつなぎ合わせていくようなことはまだできなかった時代である。最高のコンディションのメンバーが集まり、途轍もない緊張感をもって演奏が繰り広げられたのではないか。今に生きる一人の音楽愛好家として、そんなことを夢想したりする。

 このアルバムは、いまさら私が紹介するまでもない名盤中の名盤で、ジャズのおすすめランキングなどの企画があれば必ず上位に選ばれるものだ。ジャズの枠を超えて、全てのアルバムの中でも十指に入るのではないか。誰にでも絶対の自信をもってすすめられる逸品なのである。

 好事家の間では、このアルバムでモード・ジャズが始まったということのようだが、一人の音楽愛好家に過ぎない私にはその理屈はうまく理解できない。コードよりも旋律を重視した奏法と勝手に解釈しているが、どうだろうか。現代音楽が、調性を超越して旋律の前後のつながりだけに帰結するように(これも自分勝手な解釈です)。

The Ipanemas / Afro Bossa

評価 :5/5。

2003年作品

Music

  1. Suspeita
  2. Sertão
  3. Sereno
  4. Espraiado
  5. Música Profissional
  6. Chorinho B
  7. Bambuí
  8. Bosco
  9. Aqui Dá Tudo Certo
  10. Seu Dario
  11. São Pedro da Aldeia
  12. Afro

 まず最初に言っておこう。このアルバムは素晴らしいので、是非にも聴いてみてもらいたい。ワールド・ミュージックを聴く人なら、必ず聴くべきアルバムである。以上終り。それだけで良い。

 が、それでは紹介にならないので、このアルバムについて少しく記してみることにしたい。

 表題がアフロ・ボッサとなっているが、いわゆるボサノバを期待して購入すると期待外れになるだろう。このアルバムを聴くと、ラテンの要素もボサノバの要素も感じるけれども、どれとも違う彼ら独自の音楽に昇華していると言ってよいだろう。

 イパネマスはウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)とネコ(Neco)のグループ。ウィルソンはパーカッショニスト。ネコはギタリストだ。

 Wikipediaの記述によると、ウィルソン・ダス・ネヴィスは重要なスタジオ・ミュージシャンでサラ・ヴォーン、トゥーツ・シールマンス、エリス・レジーナと共演しているようだ。Wikipediaには、もっとたくさんのミュージシャンと共演したと書かれているが、ここでは私が知っているミュージシャンだけをピックアップしたのである。いやはや、こんな大物と共演しているのなら、彼の実力は折り紙付きというものだ。

 ネコのことは良く判らないのだが、同様に素晴らしいスタジオ・ミュージシャンだと勝手に思っている。

 彼らは、Os Ipanemasの名で1964年に最初のアルバムを出し、残念ながらその後は活動を停止してしまった。二枚目のアルバム「The Return of the Ipanemas」を発売したのが2001年。そして、私の最高に気に入っているこの「Afro Bossa」を発売したのが2003年である。この活動休止期間の間は、二人とも先に挙げた大御所達のためにプレイしていたのだろう。

 長すぎる活動休止期間が惜しまれるところである。

 あのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ( Buena Vista Social Club)のアルバムと映画の発売、公開が1990年代の最後の数年だから、イパネマスの活動再開も彼ら老ミュージシャンたちの活躍に触発されてのことだったのかも知れない。

 スタジオ・ミュージシャンとして、それだけのキャリアを重ねた彼らが録音したアルバムだから、特定のジャンルに収まらないのも無理はない。

 再結成後というべきか活動再開後というべきかは分からないのだが、イパネマスは2001年以来数枚のアルバムを発表しているのだが、私はこのアルバムが最も好みである。中でも、打楽器の面白みを最高に楽しめる最後の曲「Afro」が秀逸である。キューバの音楽を聴いていると、アフリカ土着の音楽そのものに聞える楽曲に触れることがある。この曲はそれらともまた違うアプローチなのだが、しかししっかりとアフロになっている。より洗練されていると言うべきだろうか。ブラジルの民族楽器ビリンバウの響きが楽しめる「Espraiado」も素晴らしい。独特の疾走感のある曲調だ。

 その他の曲もどれも高い水準の曲ばかりで、流して聴くとあっという間にアルバムを聴き終えてしまう。凄いアルバムである。

 この記事を書くためにAmazonで調べていたら、このグループの最初の作品「Os Ipanemas」が販売されているのを見つけて購入してしまった。最近、Amazon Music Unlimitedで音楽を聴くことが多くなってCDを買う枚数が激減したのだが、最近また増え始めている。このウェブ・ページを書き始めたからかな。

菅波ひろみ / 10YEARS

評価 :4/5。

2014年作品

Music

  1. Set Me Free
  2. You’re My Perfect Lover
  3. もう一度だけ
  4. 再生の灯火に -We’re Standing All Over Again
  5. Dreaming Child
  6. SING OUT!
  7. I Just Wanna Feel Alright!
  8. 汐騒の慕情
  9. MUSIK IS…
  10. Life Is Journey
  11. 季節はめぐって

 菅波ひろみを聴くようになったきっかけは、Fukushima Recordsでその歌声に触れたことであった。Fukushima Recordsは、東北の震災後に福島県内の企業と有志のミュージシャンが集まって作ったプロジェクトで(正しく説明すると少し違うかもしれないが、私の理解はこの程度である)、難波弘之の演奏が聴けることが購入の決め手だった。

 このプロジェクトから出ている5枚のアルバムのうち、「声に出して。」と「Vanilla」に菅波ひろみの曲が含まれていて、このシリーズのアルバムを何度も聴くうちに、ソウルフルな歌をうたうこの歌手をきちんと聴いてみたくなり、Amazon Musicで探してこのアルバムを聴くようになった。そして、私はそこに収録されている楽曲の魅力にとりつかれた。このアルバムを何度も繰り返し聴いた。彼女の良いところは、日本語で歌うところ。ロックも、フラメンコも日本語で歌うとまるで違う音楽ジャンルのようになってしまうことが多いのだが、菅波に限ってはそんなことはない。きちんとソウルミュージックになっている。魂の音楽だ。

 調べてみると、彼女は福島県いわき市の出身で、自身も被災しているらしい。音楽活動のかたわら、歌の指導をしているようだ。このアルバムには、震災を歌った曲「再生の灯火に -We’re Standing All Over Again」が含まれるが、被災した経験が、彼女の歌に深みを与えているのは間違いないだろう。

 菅波ひろみは素晴らしいシンガーだ。アップテンポの曲もバラードも高い歌唱力で歌いきって、危ういところは微塵もない。彼女の歌う曲は、アメリカのソウルミュージックの影響を色濃く感じさせるものが多いが、ソウルミュージックの単なる模倣ではなく、日本人ならではの何かが含まれているように感じる。楽器を演奏しているメンバーも水準が高く、アルバムをとおして安定した演奏を聴かせてくれる。コーラスも秀逸だ。

 演奏メンバーは次のとおり。

  • Keyboard :中道勝彦
  • Guitar :荻原亮
  • Bass&Band master、 Co-producer:江口弘史
  • Drums:白根佳尚

 1曲目の「Set Me Free」はエレキベースの印象的なリフレインから始まる乗りの良い曲だ。この曲を聴いただけでアルバム全体への期待が高まるだろう。菅波は日本語と英語とで歌っており、歌詞がわかるというのも本場のソウルミュージックにはない利点である。

 2曲目の「You’re My Perfect Lover」と5曲目の「Dreaming Child」では、荻原亮のギターが聴ける。これだけのミュージシャンを集めることができたのも、菅波の実力と言えるだろう。5曲目はスライドギターだ。こちらも味があってよい。「Dreaming Child」はファンキーで乗れる曲だ。

 3曲目の「もう一度だけ」は、しっかりしたミュージシャンの演奏にささえられたしっとりとしたバラードだ。「すり減った靴の底で、さみしさが音を立てる・・・・・・。」歌詞もしみじみ良いと思う。歌の間に入るキーボードのソロも私好みで、印象的だ。

 4曲目の「再生の灯火に -We’re Standing All Over Again」は哀しく美しい震災の曲だ。この歌詞は被災した人の思い謳ったものとして、現代日本に住む誰にも素直に受け入れられるものであろう。この曲もキーボードが秀逸だ。

 6曲目の「SING OUT!」は、タメの感じられるベースの旋律が印象的な、ファンクよりの曲だ。カッティングギターと、切れの良いドラムスも良い。悲しんでばかりはいられない。ファンキーだ。

 このアルバムの最後を飾る「季節はめぐって」は、抒情的なバラードだ。あからさまに歌詞には表れないが、季節の移り変りと美しい自然とを謳うこの曲にも、震災の影が指しているように感じてしまう。ルイ・アームストロングの「この素晴らしい世界(What A Wonderful World)」の歌詞に逆説的なものを感じるように。この曲のエフェクターをかけないギターの調べも良い。生のピアノ(に聞える音源)を使用しているのも良い。この曲で静かにこのアルバムは終る。