1998年作品
これは、エディー・パルミエリ(Eddie Palmieri)の代表作ではないが、私にとっては特別な作品だ。それは、私が聴いた最初のエディー・パルミエリのアルバムがこれだったからである。
Music
- Sube (Tony Taño)
- Café (Eddie Palmieri/ Robert Gueits)
- Pas D’histoires (Eddie Palmieri)
- Malagueña Salerosa (Pedro Galindo/ Elpidio Ramírez)
- El Dueño Monte (Eddie Palmieri)
- Dónde Está Mi Negra (Eddie Palmieri)
- La Llave (Jesús Alfonso)
- Oigan Mi Guaguancó (Arsenio Rodríguez)
- Para Que Escuchen (Eddie Palmieri)
- Bug (Eddie Palmieri)
二十年ほど前のことになるが、当時所帯を持ったばかりで金銭的余裕がなかった私は、図書館でCDを借りて聴くことが多かった。その、図書館で借りたCDの中にこのアルバムが含まれていたのである。借りたCDをパソコンに取り込んだから、今もこのアルバムはCDを所有していない。
実は、エディー・パルミエリのアルバム(CD)は大量に所有しているので、このアルバムも当然手元にあると思っていた。しかし、この記事を書くためにライナーノーツを見ようと思って探してみると手元にない。どうやら、借りたCDから取り込んだデータがあるので、コレクションから漏れていたようである。この先、手に入れられなくなる可能性があるので、たった今Amazonで註文しておいた。
エディー・パルミエリの作品としてはこれはそれほど重要性の高いアルバムではないかも知れない。このアルバムの他に、彼が新しい音楽ジャンルを切り拓いた記念すべきアルバムがたくさんある。そして、成功者である我が敬愛するエディーが、お気に入りのミュージシャンたちを集めて、いつものラテンアルバムを作成したのが、このアルバムなのだ。だが、音楽というのは重要な作品から聞かなければならないという決まりはないわけで、事実、私もこのアルバムでエディー・パルミエリを知って、今や大ファンになっているわけだ。
註文したアルバム(CD)が手元に届いたので、演奏者を記載していきたい。このアルバムは曲ごとに演奏しているミュージシャンが異なり、全曲通して演奏しているのはエディー・パルミエリだけではないかと思うくらいだ。ライナーノーツには曲ごとに演奏者がズラリと書かれていて、これをまとめて記載するのは大変な作業である。作曲者は冒頭の曲名の後に括弧書で記しておいたので参考にしてもらいたい。
というわけで、私の知っているミュージシャンに限って、どの曲で演奏しているか、歌っているかを記すにとどめたいと思う。
まず、著名なジャズ・ミュージシャンの曲をラテン音楽として演奏したライブ・アルバムを多数出しているトロンボーン奏者、コンラッド・ハーウィグ(Conrad Herwig)が参加している。全曲とおして演奏しているのはエディー・パルミエリくらいと書いたばかりだが、ライナーノーツをよく見てみると彼も全曲でトロンボーンを演奏していることが判った。エディーのお気に入りのミュージシャンのようである。
ヴォーカルはエルマン・オリベイラ(Hermán Olivera)(1、2、4、6、8、)とウィチー・カマーチョ(Wichy Camacho)(3、5、7、9)の二人。このうちエルマン・オリベイラはブルーノート東京でのライブで、その歌声を何度か直接聴いている思い出深いヴォーカリストである。長身の彼は、マラカス(というのだろうか)を振りながら、のびのびとした声で歌う素晴しい歌手であった。自身の名義のアルバムも何枚か出している。
「Oiga Mi Guaguanco」でトレス(Tres)でソロを弾いているのはネルソン・ゴンサーレス(Nelson González)だ。エルマン・オリベイラの「アディオス、ネルソン・ゴンサーレス」という声を聞き取ることができる。彼は「Café」でもトレスを弾いていると書かれているが、その演奏を聴き分けることはできなかった。「only background」と書かれているから、目立たないのであろう。この人の演奏もブルーノート東京で何度か聴いている。とても几帳面な感じの小柄な方である。
最後の曲「Bug」ではBryan Lynchもトランペットで参加している。このアルバムの参加ミュージシャンについては、Discogsのページが詳しいので、興味のある方はご覧いただきたい。ただ、手元にあるライナーノーツと全てを比べたわけではないので、その正確性を保証することはできないのだが。
このブログを書くために手に入れたライナーノーツと日本語訳歌詞をみていて気付いた。アルバムについてくるこれらのアイテムには、音楽をより深く楽しむためのヒントが隠されているということに。これまでの私は音楽さえ聴ければよいと思い、ライナーノーツはろくに見もせずに一瞥しただけでしまいこんでいた。しかし、音楽を聴きながら参加ミュージシャンを知り、歌詞を理解することで、今まで聞き流していた音楽の新しい楽しみ方に気付かされたのである。何ということだ。このアルバムに初めて出会ってからおそらく二十年以上の間、私はその機会を手に入れようとしてこなかったのである。
ライナーノーツをみながら音楽を聴くと愉しいのだ。若かった頃は、アルバムを買うとライナーノーツをなめるように読んで、アルバムも繰り返し何度も聴いたものである。アルバムを買うという行為が特別のものではなくなってからは、真剣にアルバムと向き合うというような聴き方を忘れてしまっていたようである。単純に多忙であるためであったのかも知れないが。
さて、このアルバムの中で特に秀逸なのは「Café」だ。この曲はエディーの古いアルバム「Echando Pa’lante (Straight Ahead)」でも聴くことができる。古い録音ではもっと遅いテンポで味のある演奏であった。が、このアルバムでは、より切れのあるリズムと演奏を聴くことができる。エディーのピアノもより情熱的である。この曲に限らず、このアルバム全体に打楽器のリズムが洪水のように溢れている。どの曲を聴いてもリズムに浸ることができる楽しいアルバムである。
「Pas D’histoiries」は非常にテンポの良い曲。歌詞カードを見ると「俺の音楽に文句を付けないでくれ。ルンバを続けてくれ。」という意味らしい。歌手はウィチー・カマーチョ。「Malagueña Salerosa」はディー・パルミエリの曲ではないが、この曲で聴けるエディーのピアノソロも秀逸である。「El Dueño Monte」で聴けるウィチー・カマーチョの声も印象的だ。エディーのソロも素晴らしい。叫びながら弾いているのがわかる大変な熱演である。ともかく、全曲通してあっという間に聴き終えてしまう。
「Oiga Mi Guaguanco」は、冒頭で聴ける十秒以上にわたる打楽器だけの演奏が珍しくて楽しい。打楽器だけの部分が終ったあとの曲ももちろん愉しい。これは、エディーから見ても先達のアルセニオ・ロドリゲス(Arsenio Rodríguez)の曲である。
アルバムの最後を飾る曲「Bug」はジャズと言って良いだろう。ベーシストはジョン・ベニテス(john benitez)に代っている。 音を聞くとダブルベース(ウッドベース)のようだ。前述のとおりブライアン・リンチが演奏に加わっているから、当然彼がソロを吹きまくっているのかと思ったら、リンチは第一トランペットなのだが、ソロは第二トランペットのTony Lujanが演奏しているらしい。思い込みというのは怖いものである。ジャズのアルバムも出しているコンラッド・ハーウィグはソロを演奏している。
長々と書いてしまったが、エディー・パルミエリを聞いたことがない方におすすめのアルバムである。素晴らしいよ。このアルバムは。