Afro-Cuban All Stars / A Toda Cuba le Gusta

評価 :5/5。

1997年作品

 ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(Buena Vista Social Club)の先駆けとなった記念すべきアルバム。アフロ・キューバン・オールスターズ(Afro-Cuban All Stars)とブエナ・ビスタ・ソシアルクラブとの関係はやや複雑である。

が、その前にミュージシャンを紹介しておこう。

  • Lead Vocals: Ibrahím Ferrer, Pío Leyva, Manuel ‘Puntillita’ Licea, Raúl Planas, José Antonio ‘Maceo’ Rodríguez, Felix Valoy
  • Tres and leader: Juan de Marcos González
  • Piano: Ruben González
  • Bass: Orlando ‘Cachaito’ López
  • Trumpets: Luis Alemañy, Masnuel ‘Guajiro’ Mirabal, Daniel Ramos
  • Trombones: Carlos ‘El Afrokán’ Alvarez, Demetrio Muñiz
  • Baritone Sax and flute: Javier Zaiba
  • Pertcussion: Miguel ‘Anga’ (congas), Julienne Oviedo (timbales), Carlos González (bongos), Alberto Virgilio Valdés (maracas), Carlos Puisseaux (güiro)
  • Chorus vocals: Alberto Virgilio Valdés,Luis Barzaga, Juan de Marcos González
  • Special guests:Ry Cooder (Slide Guitar ‘Alto Songo’), Richard Egües (flute ‘Habana del Este’), Barbarito Torres (laoud ‘amor Verdadero’)

 このリストを見れば、ブエナ・ビスタとの共通性は明らかであろう。はじめ、ライ・クーダーがキューバのベテラン・ミュージシャンとアルバムを作成する予定であったが、そのキューバ側のまとめ役がファン・デ・マルコスであった。そして合流する予定だったアフリカのミュージシャンのビザが下りなかったために、ファン・デ・マルコスが中心となって先んじて作成されたのがこのアルバムだったのである。そのため、ライ・クーダーもスライド・ギターでアルバムに参加している。

 「Afro-Cuban All Stars」というバンドは、実際にはファン・デ・マルコスが当時すでに引退していたベテラン・ミュージシャンを口説いて寄せ集めたグループなのである。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブとミュージシャンが共通しているのはそんな経緯によるものだ。世界的に有名となったのはブエナ・ビスタの方だが、このアルバムも素晴らしい魅力に満ちている。

 曲ごとにヴォーカリストが異なっていたりするのは、そのためだろう。参加してもらった古老ともいうべきベテラン・ヴォーカリストのそれぞれに花を持たせる必要があったのではないだろうか。ファン・デ・マルコス・ゴンサーレスがこのグループのリーダーで、ほとんどの曲は彼がアレンジしている。このメンバーの中では若手といえる彼が、このアルバムの立役者であったことは間違いない。彼こそがこのアルバムのキーマンなのであった。

 このアルバムを通してルベーン・ゴンサーレスの存在感が圧倒的である。透明感のある軽快なピアノの音色がこのアルバムに欠かせない。ソロも素晴らしいが、伴奏も見事である。このアルバムはルベーン・ゴンサーレスのアルバムだと言ってもよいと思っている。

 Amor Verdaderoのリード・ボーカルはマヌエル・プンティリータ・ルシア。ソリストはルベーン・ゴンサーレス(Piano)とバルバリート・トーレス(laoud)である。聞きなれない異国情緒のある音のする弦楽器がバルバリートの弾くlaoud(ラウーと読むらしい)であろう。よく聴いていると、ルベーン・ゴンサーレスのピアノですとかバルバリート・トーレスです(だと思う)とかの掛声が入るので誰が弾いているか判りやすい。軽快で楽しい曲。

 Alto Songoでは、ラウル・プラナス、ピオ・レイバ、マヌエル・プンティリータ・ルシア、ホセ・アントニオ・マセオ・ロドリゲスの順でリード・ボーカルをとっている。ソロを弾いているのはグアヒーロ・ミラバル(Trumpet)、ライ・クーダー (Slide Guitar)、ルベーン・ゴンサーレス(Piano)である。

 Habana del Esteは哀愁を感じさせる旋律が美しい。南国の夕日に染まる海岸が目に見えるようだ。そこには椰子の木が茂っていなければならない。さて、ソリストはリカルド・エグエス(flute)とオルランド・カチャイート・ロペス(Bass)だ。そろそろスペイン語の名前を片仮名で書くのも面倒になってきた。Richardはスペイン語だと「リカルド」になると思うが、自信はないのである。Orlandoもオランドかオルランドかオーランドか良く判らない。オルランドではないかと思うのだが・・・・・・。

 A Toda Cuba Le Gustaではラウル・プラナスのボーカル、グアヒーロ・ミラバルのトランペット、ハビエル・サルバのバリトン・サックスが聴ける。これも非常に乗りの良い楽しい曲。

 Fiesta de la Rumbaではファン・デ・マルコスのトレスが聴ける。曲の冒頭で聴けるアラブの楽器のような音がする弦楽器の音がそれであろう。リードボーカルはフェリックス・バロイ。打楽器だけの伴奏で始まる特徴ある曲である。

 しかし、このCDに付属しているライナーノーツには力が入っていて、キューバの音楽について、そして収録されている楽曲について説明が書かれているらしく、英語がスラスラ読めたなら大変参考になることが書かれているようなのである。私にはその能力はないのであるが。もう少し英語の勉強をしておくのだった。少年老い易く学成り難し。私はもう中年(初老?)だが。

 Los Sitio’ Asereはフェリックス・バロイとホセ・アントニオ・マセオ・ロドリゲスがリードボーカル。ファン・デ・マルコス(tres)とルベーン・ゴンサーレス(piano)がソロを弾いている。

 Pío Mentirosoはタイトルのとおりピオ・レイバが歌っている。トランペットのソロはグアヒーロ・ミラバルだ。この曲はこのアルバムの中でも聴きやすく楽しい曲だ。

 María Caracolesではイブライム・フェレールのリードボーカルが聴ける。ソリストは、マヌエル・アンガ(congas)とグアヒーロ・ミラバル(trumpet)だ。これも聴きやすく楽しい。このアルバム全体に言えることだが、打楽器が素晴らしい。特にこの曲の冒頭で聴けるコンガのソロは聴きごたえがある。

 そして、ルベーン・ゴンサーレスの見せ場が、Clasiqueando con Rubénである。リードボーカルは入らない。ソロを弾いているのはルベーン・ゴンサーレス(piano)、グアヒーロ・ミラバル(trumpet)、アンガ(congas)、カルロス・アルバレス(trombone)である。ルベーン・ゴンサーレスの弾いているのはクラシック風の旋律。ハイドンやバッハの曲に似せた旋律を作ったらしい。多分・・・・・・。

 最後の、Elube Changóまであっという間に聴き終えてしまう。この曲はファン・デ・マルコスが主役の曲。リードボーカルとトレスのソロを彼が担当している。他にソロを弾いているのは、グアヒーロ・ミラバル(trumpet)、デメトリオ・ミニス(trombone0)、アンガ(congas)だ。豪華な曲。

 ライナーノーツを眺めながらアルバムを通して聴くのは初めてかも知れないが、これはこれまでの私がしていたように聞き流してしまうには惜しい作品だ。できれば、音楽専用の再生装置の前でゆったりと坐って聴いてもらいたい作品である。いろいろと忙しい現代社会では、そうして音楽に向き合う時間がとりにくいのが事実なのではあるが。

 ライナーノーツの最後には次のように書かれている。ファン・デ・マルコス・ゴンサーレスの言葉だ。やはり、このアルバムの本当の主役はルベーン・ゴンサーレスだったようだ。全曲を通して素晴しいピアノ演奏を披露してくれたルベーン・ゴンサーレス。素晴らしいピアニストである。

“This album is dedicated to Ruben Gonzalez, genius of Cuban piano.”

Juan de Marcos González

このアルバムをキューバン・ピアノの天才、ルベーン・ゴンサーレスに捧げます。

ファン・デ・マルコス・ゴンサーレス。

The Ipanemas / The Return Of The Ipanemas

評価 :4.5/5。

 2001年作品

 これは、イパネマスの復帰後最初のアルバム。新生The Ipanemasの実質的ファーストアルバムだ。ライナーノーツを参考に、曲名と演奏者の情報を記しておく。曲名は簡単に調べられるが、演奏者の情報は、見付けにくいので貴重な情報になるはずだ。

Music

  1. Sacunda
  2. Birinight
  3. Sacunde
  4. Icarai
  5. Balaio
  6. A Saudade E Que Me Consola
  7. Chorinho A
  8. Berimbaco
  9. Batecoxa
  10. Verao
  11. Miragem

Musicians

  • WILSON DAS NEVES : Drums / Vocals / Percussion / Lead vocal on Track6
  • NECO : Acoustic Guitar / Vocals / Cavaquinho track 4
  • JORGE HELDER : Bass / Vocals / Guitar track 4
  • MAMAO : Drums / Vocals / Guitar track 1
  • DUDU LIMA : Bass
  • PAULO WILIAMS : Trombone
  • DON CHACAL : Percussion
  • ZEZINHO : Percussion
  • MARVIO CIRIBELLI : Acoustic Piano

 ライナーノーツを見て解ることは、まず最初にネコの表記がNécoからNecoに変ったことである。そして、全ての曲でネコ(neco)がギターを弾いているのではないということだ。track 1(Sacunda)でギターを弾いているのはMamaoことIvan Contiだ。そして、track 4(Icarai)ではネコがカヴァキーニョ(Cavaquinho、ウクレレに似たブラジルの民族楽器)を弾く代りにJorge Helderがギターを弾いている。Icarai終盤で聞える余韻の少ないナイロン弦ギターに似たトレモロ奏法で弾かれている音がカヴァキーニョの音なのだろう。

 track 6(A Saudade E Que Me Consola)でリードボーカルをとっているのは、御大、ウィルソン・ダス・ネヴィス(wilson Das Neves)だ。track 8のBerimbacoでは彼の演奏するビリンバウ(ブラジルの民族楽器)の不思議な音色を存分に楽しむことができる。track 10(Verao)では、トロンボーンののびのびとした音色が心地よい。この曲で聴ける生音のピアノを演奏しているのはマルヴィオ・シリベッリ(Marvio Ciribelli)だ。

 Birinightで聴けるギターの音色が心地よい。ライナーノーツの情報から判断するとこれを弾いているのはネコなのであろう。ゆったりしたテンポにのせた爽やかな旋律で、聴いていてリラックスできる。この曲ではネコが主役だ。秀逸である。同じギターはSacundeでも聴くことができる。ウィルソン・ダス・ネヴィスの方がたくさんのアルバムを出していて有名なのではないかと思うが、ネコのギターも存在感では負けていない。

 このアルバムのもう一つの聴きどころBerimbacoである。先にも書いたが、他ではなかなか聞くことのできないビリンバウの演奏を堪能できるからだ。長いビリンバウの独奏の後で、突然始まるギターの和音と気怠い感じの歌声、心地よいトロンボーン。曲の後半ではギターの伴奏でビリンバウが聴ける。これも大変良い。ほんと、他では聞けない音楽なのである。

 Sacundeで聴けるトロンボーンの野太い音も曲にあっていて良いと思う。この楽器はSacundaでも聴くことができる。A Saudade E Que Me Consolaの冒頭でのびのびとした旋律を奏でているのもパウロ・ウィリアムス(PAULO WILIAMS)であろう。この人も、このアルバムになくてはならない味を出している人だ。この曲(A Saudade E Que Me Consola)で聴けるウィルソン・ダス・ネヴィスの歌声も味があって惹きこまれるところがある。

 今回、ブログのために調べたので、このアルバムの演奏者を読み込んだのは自分自身はじめてのことである。ライナーノーツには、音楽を楽しむためのヒントが記されていることに、今更ながら気づかされた。こうして調べておけば、ここで演奏しているミュージシャンの他のアルバムを探して聴いてみるという楽しみにつなげることもできる。イパネマスの他のアルバムでも同じ人が演奏しているかどうか、確認することも可能になる。これまでは、ただイパネマスのアルバムとして漠然と聴いていたのだが、こうして演奏者を確認して新しい音楽の楽しみ方に気付いたような気がしている。

 このアルバムで聴ける音楽も、私の知る限り他に類を見ないものだ。ラテン、サンバ、ボサノバ、ジャズ、そんな音楽の香りが感じられるのだが、それらのものを単純に混ぜ合わせたものではない。最初のアルバム(Os Ipanemas)からはボサノバの影響を色濃く感じたが、このアルバムではボサノバの匂いは薄れている。二枚のアルバムの間によこたわる四十年近い音楽活動が、二人の音楽性に変化をもたらしたのだろう。

 イパネマスの音楽は独自性の高い素晴しいものだと思う。これはワールド・ミュージックに関心があるようなら、必ず聴いてみるべき素晴らしいアルバムである。

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