Afro-Cuban All Stars / A Toda Cuba le Gusta

評価 :5/5。

1997年作品

 ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(Buena Vista Social Club)の先駆けとなった記念すべきアルバム。アフロ・キューバン・オールスターズ(Afro-Cuban All Stars)とブエナ・ビスタ・ソシアルクラブとの関係はやや複雑である。

が、その前にミュージシャンを紹介しておこう。

  • Lead Vocals: Ibrahím Ferrer, Pío Leyva, Manuel ‘Puntillita’ Licea, Raúl Planas, José Antonio ‘Maceo’ Rodríguez, Felix Valoy
  • Tres and leader: Juan de Marcos González
  • Piano: Ruben González
  • Bass: Orlando ‘Cachaito’ López
  • Trumpets: Luis Alemañy, Masnuel ‘Guajiro’ Mirabal, Daniel Ramos
  • Trombones: Carlos ‘El Afrokán’ Alvarez, Demetrio Muñiz
  • Baritone Sax and flute: Javier Zaiba
  • Pertcussion: Miguel ‘Anga’ (congas), Julienne Oviedo (timbales), Carlos González (bongos), Alberto Virgilio Valdés (maracas), Carlos Puisseaux (güiro)
  • Chorus vocals: Alberto Virgilio Valdés,Luis Barzaga, Juan de Marcos González
  • Special guests:Ry Cooder (Slide Guitar ‘Alto Songo’), Richard Egües (flute ‘Habana del Este’), Barbarito Torres (laoud ‘amor Verdadero’)

 このリストを見れば、ブエナ・ビスタとの共通性は明らかであろう。はじめ、ライ・クーダーがキューバのベテラン・ミュージシャンとアルバムを作成する予定であったが、そのキューバ側のまとめ役がファン・デ・マルコスであった。そして合流する予定だったアフリカのミュージシャンのビザが下りなかったために、ファン・デ・マルコスが中心となって先んじて作成されたのがこのアルバムだったのである。そのため、ライ・クーダーもスライド・ギターでアルバムに参加している。

 「Afro-Cuban All Stars」というバンドは、実際にはファン・デ・マルコスが当時すでに引退していたベテラン・ミュージシャンを口説いて寄せ集めたグループなのである。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブとミュージシャンが共通しているのはそんな経緯によるものだ。世界的に有名となったのはブエナ・ビスタの方だが、このアルバムも素晴らしい魅力に満ちている。

 曲ごとにヴォーカリストが異なっていたりするのは、そのためだろう。参加してもらった古老ともいうべきベテラン・ヴォーカリストのそれぞれに花を持たせる必要があったのではないだろうか。ファン・デ・マルコス・ゴンサーレスがこのグループのリーダーで、ほとんどの曲は彼がアレンジしている。このメンバーの中では若手といえる彼が、このアルバムの立役者であったことは間違いない。彼こそがこのアルバムのキーマンなのであった。

 このアルバムを通してルベーン・ゴンサーレスの存在感が圧倒的である。透明感のある軽快なピアノの音色がこのアルバムに欠かせない。ソロも素晴らしいが、伴奏も見事である。このアルバムはルベーン・ゴンサーレスのアルバムだと言ってもよいと思っている。

 Amor Verdaderoのリード・ボーカルはマヌエル・プンティリータ・ルシア。ソリストはルベーン・ゴンサーレス(Piano)とバルバリート・トーレス(laoud)である。聞きなれない異国情緒のある音のする弦楽器がバルバリートの弾くlaoud(ラウーと読むらしい)であろう。よく聴いていると、ルベーン・ゴンサーレスのピアノですとかバルバリート・トーレスです(だと思う)とかの掛声が入るので誰が弾いているか判りやすい。軽快で楽しい曲。

 Alto Songoでは、ラウル・プラナス、ピオ・レイバ、マヌエル・プンティリータ・ルシア、ホセ・アントニオ・マセオ・ロドリゲスの順でリード・ボーカルをとっている。ソロを弾いているのはグアヒーロ・ミラバル(Trumpet)、ライ・クーダー (Slide Guitar)、ルベーン・ゴンサーレス(Piano)である。

 Habana del Esteは哀愁を感じさせる旋律が美しい。南国の夕日に染まる海岸が目に見えるようだ。そこには椰子の木が茂っていなければならない。さて、ソリストはリカルド・エグエス(flute)とオルランド・カチャイート・ロペス(Bass)だ。そろそろスペイン語の名前を片仮名で書くのも面倒になってきた。Richardはスペイン語だと「リカルド」になると思うが、自信はないのである。Orlandoもオランドかオルランドかオーランドか良く判らない。オルランドではないかと思うのだが・・・・・・。

 A Toda Cuba Le Gustaではラウル・プラナスのボーカル、グアヒーロ・ミラバルのトランペット、ハビエル・サルバのバリトン・サックスが聴ける。これも非常に乗りの良い楽しい曲。

 Fiesta de la Rumbaではファン・デ・マルコスのトレスが聴ける。曲の冒頭で聴けるアラブの楽器のような音がする弦楽器の音がそれであろう。リードボーカルはフェリックス・バロイ。打楽器だけの伴奏で始まる特徴ある曲である。

 しかし、このCDに付属しているライナーノーツには力が入っていて、キューバの音楽について、そして収録されている楽曲について説明が書かれているらしく、英語がスラスラ読めたなら大変参考になることが書かれているようなのである。私にはその能力はないのであるが。もう少し英語の勉強をしておくのだった。少年老い易く学成り難し。私はもう中年(初老?)だが。

 Los Sitio’ Asereはフェリックス・バロイとホセ・アントニオ・マセオ・ロドリゲスがリードボーカル。ファン・デ・マルコス(tres)とルベーン・ゴンサーレス(piano)がソロを弾いている。

 Pío Mentirosoはタイトルのとおりピオ・レイバが歌っている。トランペットのソロはグアヒーロ・ミラバルだ。この曲はこのアルバムの中でも聴きやすく楽しい曲だ。

 María Caracolesではイブライム・フェレールのリードボーカルが聴ける。ソリストは、マヌエル・アンガ(congas)とグアヒーロ・ミラバル(trumpet)だ。これも聴きやすく楽しい。このアルバム全体に言えることだが、打楽器が素晴らしい。特にこの曲の冒頭で聴けるコンガのソロは聴きごたえがある。

 そして、ルベーン・ゴンサーレスの見せ場が、Clasiqueando con Rubénである。リードボーカルは入らない。ソロを弾いているのはルベーン・ゴンサーレス(piano)、グアヒーロ・ミラバル(trumpet)、アンガ(congas)、カルロス・アルバレス(trombone)である。ルベーン・ゴンサーレスの弾いているのはクラシック風の旋律。ハイドンやバッハの曲に似せた旋律を作ったらしい。多分・・・・・・。

 最後の、Elube Changóまであっという間に聴き終えてしまう。この曲はファン・デ・マルコスが主役の曲。リードボーカルとトレスのソロを彼が担当している。他にソロを弾いているのは、グアヒーロ・ミラバル(trumpet)、デメトリオ・ミニス(trombone0)、アンガ(congas)だ。豪華な曲。

 ライナーノーツを眺めながらアルバムを通して聴くのは初めてかも知れないが、これはこれまでの私がしていたように聞き流してしまうには惜しい作品だ。できれば、音楽専用の再生装置の前でゆったりと坐って聴いてもらいたい作品である。いろいろと忙しい現代社会では、そうして音楽に向き合う時間がとりにくいのが事実なのではあるが。

 ライナーノーツの最後には次のように書かれている。ファン・デ・マルコス・ゴンサーレスの言葉だ。やはり、このアルバムの本当の主役はルベーン・ゴンサーレスだったようだ。全曲を通して素晴しいピアノ演奏を披露してくれたルベーン・ゴンサーレス。素晴らしいピアニストである。

“This album is dedicated to Ruben Gonzalez, genius of Cuban piano.”

Juan de Marcos González

このアルバムをキューバン・ピアノの天才、ルベーン・ゴンサーレスに捧げます。

ファン・デ・マルコス・ゴンサーレス。

The Ipanemas / The Return Of The Ipanemas

評価 :4.5/5。

 2001年作品

 これは、イパネマスの復帰後最初のアルバム。新生The Ipanemasの実質的ファーストアルバムだ。ライナーノーツを参考に、曲名と演奏者の情報を記しておく。曲名は簡単に調べられるが、演奏者の情報は、見付けにくいので貴重な情報になるはずだ。

Music

  1. Sacunda
  2. Birinight
  3. Sacunde
  4. Icarai
  5. Balaio
  6. A Saudade E Que Me Consola
  7. Chorinho A
  8. Berimbaco
  9. Batecoxa
  10. Verao
  11. Miragem

Musicians

  • WILSON DAS NEVES : Drums / Vocals / Percussion / Lead vocal on Track6
  • NECO : Acoustic Guitar / Vocals / Cavaquinho track 4
  • JORGE HELDER : Bass / Vocals / Guitar track 4
  • MAMAO : Drums / Vocals / Guitar track 1
  • DUDU LIMA : Bass
  • PAULO WILIAMS : Trombone
  • DON CHACAL : Percussion
  • ZEZINHO : Percussion
  • MARVIO CIRIBELLI : Acoustic Piano

 ライナーノーツを見て解ることは、まず最初にネコの表記がNécoからNecoに変ったことである。そして、全ての曲でネコ(neco)がギターを弾いているのではないということだ。track 1(Sacunda)でギターを弾いているのはMamaoことIvan Contiだ。そして、track 4(Icarai)ではネコがカヴァキーニョ(Cavaquinho、ウクレレに似たブラジルの民族楽器)を弾く代りにJorge Helderがギターを弾いている。Icarai終盤で聞える余韻の少ないナイロン弦ギターに似たトレモロ奏法で弾かれている音がカヴァキーニョの音なのだろう。

 track 6(A Saudade E Que Me Consola)でリードボーカルをとっているのは、御大、ウィルソン・ダス・ネヴィス(wilson Das Neves)だ。track 8のBerimbacoでは彼の演奏するビリンバウ(ブラジルの民族楽器)の不思議な音色を存分に楽しむことができる。track 10(Verao)では、トロンボーンののびのびとした音色が心地よい。この曲で聴ける生音のピアノを演奏しているのはマルヴィオ・シリベッリ(Marvio Ciribelli)だ。

 Birinightで聴けるギターの音色が心地よい。ライナーノーツの情報から判断するとこれを弾いているのはネコなのであろう。ゆったりしたテンポにのせた爽やかな旋律で、聴いていてリラックスできる。この曲ではネコが主役だ。秀逸である。同じギターはSacundeでも聴くことができる。ウィルソン・ダス・ネヴィスの方がたくさんのアルバムを出していて有名なのではないかと思うが、ネコのギターも存在感では負けていない。

 このアルバムのもう一つの聴きどころBerimbacoである。先にも書いたが、他ではなかなか聞くことのできないビリンバウの演奏を堪能できるからだ。長いビリンバウの独奏の後で、突然始まるギターの和音と気怠い感じの歌声、心地よいトロンボーン。曲の後半ではギターの伴奏でビリンバウが聴ける。これも大変良い。ほんと、他では聞けない音楽なのである。

 Sacundeで聴けるトロンボーンの野太い音も曲にあっていて良いと思う。この楽器はSacundaでも聴くことができる。A Saudade E Que Me Consolaの冒頭でのびのびとした旋律を奏でているのもパウロ・ウィリアムス(PAULO WILIAMS)であろう。この人も、このアルバムになくてはならない味を出している人だ。この曲(A Saudade E Que Me Consola)で聴けるウィルソン・ダス・ネヴィスの歌声も味があって惹きこまれるところがある。

 今回、ブログのために調べたので、このアルバムの演奏者を読み込んだのは自分自身はじめてのことである。ライナーノーツには、音楽を楽しむためのヒントが記されていることに、今更ながら気づかされた。こうして調べておけば、ここで演奏しているミュージシャンの他のアルバムを探して聴いてみるという楽しみにつなげることもできる。イパネマスの他のアルバムでも同じ人が演奏しているかどうか、確認することも可能になる。これまでは、ただイパネマスのアルバムとして漠然と聴いていたのだが、こうして演奏者を確認して新しい音楽の楽しみ方に気付いたような気がしている。

 このアルバムで聴ける音楽も、私の知る限り他に類を見ないものだ。ラテン、サンバ、ボサノバ、ジャズ、そんな音楽の香りが感じられるのだが、それらのものを単純に混ぜ合わせたものではない。最初のアルバム(Os Ipanemas)からはボサノバの影響を色濃く感じたが、このアルバムではボサノバの匂いは薄れている。二枚のアルバムの間によこたわる四十年近い音楽活動が、二人の音楽性に変化をもたらしたのだろう。

 イパネマスの音楽は独自性の高い素晴しいものだと思う。これはワールド・ミュージックに関心があるようなら、必ず聴いてみるべき素晴らしいアルバムである。

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Eddie Palmieri / El Rumbero del Piano

評価 :5/5。

1998年作品

 これは、エディー・パルミエリ(Eddie Palmieri)の代表作ではないが、私にとっては特別な作品だ。それは、私が聴いた最初のエディー・パルミエリのアルバムがこれだったからである。

Music

  1. Sube (Tony Taño)
  2. Café (Eddie Palmieri/ Robert Gueits)
  3. Pas D’histoires (Eddie Palmieri)
  4. Malagueña Salerosa (Pedro Galindo/ Elpidio Ramírez)
  5. El Dueño Monte (Eddie Palmieri)
  6. Dónde Está Mi Negra (Eddie Palmieri)
  7. La Llave (Jesús Alfonso)
  8. Oigan Mi Guaguancó (Arsenio Rodríguez)
  9. Para Que Escuchen (Eddie Palmieri)
  10. Bug (Eddie Palmieri)

 二十年ほど前のことになるが、当時所帯を持ったばかりで金銭的余裕がなかった私は、図書館でCDを借りて聴くことが多かった。その、図書館で借りたCDの中にこのアルバムが含まれていたのである。借りたCDをパソコンに取り込んだから、今もこのアルバムはCDを所有していない。

 実は、エディー・パルミエリのアルバム(CD)は大量に所有しているので、このアルバムも当然手元にあると思っていた。しかし、この記事を書くためにライナーノーツを見ようと思って探してみると手元にない。どうやら、借りたCDから取り込んだデータがあるので、コレクションから漏れていたようである。この先、手に入れられなくなる可能性があるので、たった今Amazonで註文しておいた。

 エディー・パルミエリの作品としてはこれはそれほど重要性の高いアルバムではないかも知れない。このアルバムの他に、彼が新しい音楽ジャンルを切り拓いた記念すべきアルバムがたくさんある。そして、成功者である我が敬愛するエディーが、お気に入りのミュージシャンたちを集めて、いつものラテンアルバムを作成したのが、このアルバムなのだ。だが、音楽というのは重要な作品から聞かなければならないという決まりはないわけで、事実、私もこのアルバムでエディー・パルミエリを知って、今や大ファンになっているわけだ。

2019年4月12日ブルーノート東京にてエディー・パルミエリのコンサートの前に

 註文したアルバム(CD)が手元に届いたので、演奏者を記載していきたい。このアルバムは曲ごとに演奏しているミュージシャンが異なり、全曲通して演奏しているのはエディー・パルミエリだけではないかと思うくらいだ。ライナーノーツには曲ごとに演奏者がズラリと書かれていて、これをまとめて記載するのは大変な作業である。作曲者は冒頭の曲名の後に括弧書で記しておいたので参考にしてもらいたい。

 というわけで、私の知っているミュージシャンに限って、どの曲で演奏しているか、歌っているかを記すにとどめたいと思う。

 まず、著名なジャズ・ミュージシャンの曲をラテン音楽として演奏したライブ・アルバムを多数出しているトロンボーン奏者、コンラッド・ハーウィグ(Conrad Herwig)が参加している。全曲とおして演奏しているのはエディー・パルミエリくらいと書いたばかりだが、ライナーノーツをよく見てみると彼も全曲でトロンボーンを演奏していることが判った。エディーのお気に入りのミュージシャンのようである。

 ヴォーカルはエルマン・オリベイラ(Hermán Olivera)(1、2、4、6、8、)とウィチー・カマーチョ(Wichy Camacho)(3、5、7、9)の二人。このうちエルマン・オリベイラはブルーノート東京でのライブで、その歌声を何度か直接聴いている思い出深いヴォーカリストである。長身の彼は、マラカス(というのだろうか)を振りながら、のびのびとした声で歌う素晴しい歌手であった。自身の名義のアルバムも何枚か出している。

 「Oiga Mi Guaguanco」でトレス(Tres)でソロを弾いているのはネルソン・ゴンサーレス(Nelson González)だ。エルマン・オリベイラの「アディオス、ネルソン・ゴンサーレス」という声を聞き取ることができる。彼は「Café」でもトレスを弾いていると書かれているが、その演奏を聴き分けることはできなかった。「only background」と書かれているから、目立たないのであろう。この人の演奏もブルーノート東京で何度か聴いている。とても几帳面な感じの小柄な方である。

 最後の曲「Bug」ではBryan Lynchもトランペットで参加している。このアルバムの参加ミュージシャンについては、Discogsのページが詳しいので、興味のある方はご覧いただきたい。ただ、手元にあるライナーノーツと全てを比べたわけではないので、その正確性を保証することはできないのだが。

 このブログを書くために手に入れたライナーノーツと日本語訳歌詞をみていて気付いた。アルバムについてくるこれらのアイテムには、音楽をより深く楽しむためのヒントが隠されているということに。これまでの私は音楽さえ聴ければよいと思い、ライナーノーツはろくに見もせずに一瞥しただけでしまいこんでいた。しかし、音楽を聴きながら参加ミュージシャンを知り、歌詞を理解することで、今まで聞き流していた音楽の新しい楽しみ方に気付かされたのである。何ということだ。このアルバムに初めて出会ってからおそらく二十年以上の間、私はその機会を手に入れようとしてこなかったのである。

 ライナーノーツをみながら音楽を聴くと愉しいのだ。若かった頃は、アルバムを買うとライナーノーツをなめるように読んで、アルバムも繰り返し何度も聴いたものである。アルバムを買うという行為が特別のものではなくなってからは、真剣にアルバムと向き合うというような聴き方を忘れてしまっていたようである。単純に多忙であるためであったのかも知れないが。

 さて、このアルバムの中で特に秀逸なのは「Café」だ。この曲はエディーの古いアルバム「Echando Pa’lante (Straight Ahead)」でも聴くことができる。古い録音ではもっと遅いテンポで味のある演奏であった。が、このアルバムでは、より切れのあるリズムと演奏を聴くことができる。エディーのピアノもより情熱的である。この曲に限らず、このアルバム全体に打楽器のリズムが洪水のように溢れている。どの曲を聴いてもリズムに浸ることができる楽しいアルバムである。

 「Pas D’histoiries」は非常にテンポの良い曲。歌詞カードを見ると「俺の音楽に文句を付けないでくれ。ルンバを続けてくれ。」という意味らしい。歌手はウィチー・カマーチョ。「Malagueña Salerosa」はディー・パルミエリの曲ではないが、この曲で聴けるエディーのピアノソロも秀逸である。「El Dueño Monte」で聴けるウィチー・カマーチョの声も印象的だ。エディーのソロも素晴らしい。叫びながら弾いているのがわかる大変な熱演である。ともかく、全曲通してあっという間に聴き終えてしまう。

 「Oiga Mi Guaguanco」は、冒頭で聴ける十秒以上にわたる打楽器だけの演奏が珍しくて楽しい。打楽器だけの部分が終ったあとの曲ももちろん愉しい。これは、エディーから見ても先達のアルセニオ・ロドリゲス(Arsenio Rodríguez)の曲である。

 アルバムの最後を飾る曲「Bug」はジャズと言って良いだろう。ベーシストはジョン・ベニテス(john benitez)に代っている。 音を聞くとダブルベース(ウッドベース)のようだ。前述のとおりブライアン・リンチが演奏に加わっているから、当然彼がソロを吹きまくっているのかと思ったら、リンチは第一トランペットなのだが、ソロは第二トランペットのTony Lujanが演奏しているらしい。思い込みというのは怖いものである。ジャズのアルバムも出しているコンラッド・ハーウィグはソロを演奏している。

 長々と書いてしまったが、エディー・パルミエリを聞いたことがない方におすすめのアルバムである。素晴らしいよ。このアルバムは。

Os Ipanemas / Os Ipanemas

評価 :4.5/5。

1975年作品

  1. Consolação
  2. Nanã (Tema De Ganga Zumba)
  3. Se Chegou Assim
  4. Kenya
  5. Zulu’s
  6. Clouds (Nuvens)
  7. Adriana
  8. Garôta De Ipanema
  9. Jangal
  10. Berimbáu
  11. Congo
  12. Java

 Afro Bossaのレビューを書くために調べていて、このアルバムが安価に購入できる云ことに気付き、つい購入してしまった。以前調べたときは、結構高価で手が届かなかった記憶があるのだ。まだ、あまり聴きこんでいないのだが、感想を記しておくことにしたい。

 The Ipanemasとの違いであるが、古いライナーノーツには、ミュージシャンがきちんと書かれていない。楽器を演奏している写真の下にファーストネーム(と思われる字)が書かれているだけだ。それらの文字と写真から判断すると、Os Ipanemasは次のようなミュージシャンがメンバーだったと思われる。

  • Marinho:Bass(コントラバスを持っている)
  • Astor:Tronbone(トロンボーンを吹いている)
  • Wilson:Vocal and percussion(ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbáu)を持ってマイクの前にいる)
  • Néco:Guitar(クラシック・ギターを弾いている)
  • Rubens:Drums and percussion(ドラムスの前にすわってカウベルを叩いている)

 このアルバムを聴いて感じることは、ウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)とネコ(Néco)の存在感が圧倒的だということだ。ライナーノーツを見ると、この二人は五分の二に過ぎないように見えるが、ネコのギターとウィルソンのビリンバウの音がこのグループのサウンドを決定づけているようだ。The Ipanemasを聴いている方なら、絶対に買った方が良いアルバムである。

 このアルバムでバーデン・パウエル(Baden Powell)の曲を2曲、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)のイパネマの娘を収録している。バーデン・パウエルがボサノバかというと個人的に少し疑問もあるのだが、ネコはボサノバの影響を色濃く受けていると思っている。このころのネコのギターは、かなりボサノバ的だ。

 全体的にリズムが強調されている曲が多い中にあって、異色ともいえるのが「Clouds (Nuvens)」である。爽やかなギターの音色が聴いていて心地好い。後半に入るトロンボーンも曲を引き立たせてて良い。

 「Jangal」と「Berimbáu」ではビリンバウの音色を存分に楽しむことができる。これは、原始的な構造だが非常に魅力的な音色を出す楽器である。「Berimbáu」はバーデン・パウエルの曲だが、バーデン・パウエルのアルバムに収録されているこの曲では、この楽器の音を聴くことはできない。このブラジルの民族楽器をイメージして作曲した曲だということなのだろう。確かにこの曲のバーデン・パウエルのギターはビリンバウの演奏方法を模倣しているようだ。

 さて、入手が困難なアルバムだが、機会があれば手に入れてみたいアルバムである。

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ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbau)

 私はイパネマスの曲を聞くたびに、不思議な金属的な音、言葉で表現するとビョンビョンとしか形容しようのない奇妙な音を出す楽器が何なのか判らなかった。ずっと、スチールドラム、スチールパンのような楽器かと思っていたのだが、この不思議な楽器の音に集中して聴いてみると、どうもそれらの楽器とは違うらしい。

 そして、今日調べていたら判りました。この奇妙な音は、ブラジルの民族楽器ビリンバウ(Berimbau)のものです。

 これは、イパネマスのウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)がビリンバウを演奏している動画です。ずっと不思議だったのですが、インターネットで検索していたら判りました。いやあ、インターネットって、素晴らしいですね。そして、動画の力って本当に素晴らしい。百聞は一見に如かず。動画で確認しなければ、こんなことは調べる方法が思いつかない。もし、インターネットなしで、イパネマスのアルバムに入っているこの不思議な音色がどんな楽器によるものか調べようと思っても、おそらく調べることはできなかったに違いない。

 これで、Os Ipanemas、The Ipanemasの楽曲を聴くときの愉しみがひとつ増えました。

 しかし、不思議な楽器ですなあ。そしてウィルソンは素晴らしいミュージシャンですな。

Eddie Palmieri / Vamonos Pa’l Monte

評価 :5/5。

1971年作品

Music

  1. Revolt/La Libertad Logico
  2. Caminando
  3. Vamonos Pa’l Monte
  4. Viejo Socarrón
  5. Yo No Se
  6. Comparsa De Los Locos
  7. Viejo Socarrón (Take 9)(Bonus Track)
  8. VP Blues(Bonus Track)
  9. Mixed Marriage(Bonus Track)
  10. Moon Crater 1 (Lyndsay’s Raiders)(Bonus Track)

Musicians

  • Eddie Palmieri Band Leader
  • Ismael Quintana Vocal
  • Bob Vianco Guitar
  • Jose Rodriguez Trombone
  • Alfredo Armentereos Trumpet
  • Ronnie Cuber Baritone Saxophone
  • Nick Marrero timbales Bongo
  • Eladio Perez Conga
  • Arturo Franquiz Claves, Chorus
  • Monchito Munoz Bombo

Spetial invited guest

  • Charlie Palmieri Organ (solo)
  • Victor Paz Trumpet (Revolt/La Libertad Logico)
  • Charles Camilleri Trumpet (Caminando)
  • Pere Yellin Tenor Saxophone (intro Yo No Se)

Chorus

Santos Colon, Justo Betancourt, Marcelino Guerra, Yayo El Indio, Elliot Ramero, Mario Munoz

 このアルバムのCDは二枚持っている。最初に購入したのはボーナストラックの収録されていないもの、そして二度目に購入したのがボーナストラックの収録されているリマスター盤である。ボーナストラックのうちVP Blues、Mixed Marriage、Moon Crater 1 (Lyndsay’s Raiders)はここでしか聞けないもので、私はこの三曲が聴きたいためにリマスター盤を購入したのであった。

 エディー・バルミエリ(Eddie Palmieri)は、50年を超えるその長いキャリアのなかで、さまざまな演奏スタイルを採用してきた。ジャズに近い曲、オーソドックスなラテン音楽、そして打楽器が強力にフィーチャーされた曲。彼はハード・ラテンというスタイルを作り出した人物であるとされているが、一貫して変らないのは、彼の演奏する音楽がいつもラテン音楽だということである。

 そして、その巨匠(マエストロ)Eddie Palmieriの代表作の一枚がこのアルバムなのである。もしもこの巨匠を知らなかったとしたら、このアルバムを聴いてみると良いだろう。

 最初の「Revolt/La Libertad Logico」から、リズムの洪水に飲み込まれる。ブラスが強力に吹き鳴らされ、カウベルとボンゴ、コンガの音が心地よい。まさにハードである。スペイン語の歌詞は全く解らないのだが、革命という題名から想像すると、物騒な内容のようである。La Libertad Logicoは直訳すると論理の自由という意味だから、思想の自由ということだろうか。

 アルバム・タイトル曲の「Vamonos Pa’l Monte」では、いつものピアノだけではなく、オルガン(ハモンド・オルガンか)を聴くことができる。この曲もノリのよい曲だ。表題の意味は「山へ行こう」。都会は雑踏だが、山へ行けば清々しい気分になるぜ、と歌われていると勝手に思っている。ここでオルガン・ソロを弾いているのはエディーの兄、チャーリー・パルミエリ(Charlie Palmieri)。兄弟でも、紡ぎ出される旋律はエディーのものと明確に異なることが判るだろう。

 「Comparsa De Los Locos」は最近のライブでも良く演奏される曲。表題は「狂気の外観」という意味。どういう意味? 確かにぶっ飛んだ曲です。ある意味凄い。Blue Note Tokyoで観たコンサートでもこの曲が演奏されていたと記憶している。

 しかし、エディー・パルミエリの楽団(EDDIE PALMIERI SALSA ORCHESTRAの名で登壇していた)の技術は素晴らしい。一発録りでアルバムが作れてしまうのではないかと思うほど完璧な演奏を聴かせてくれるのである。

 エディーの演奏をもう一度生で聴くことができるだろうか。いや、是非にももう一度聴きたいと思っている。

The Ipanemas / Afro Bossa

評価 :5/5。

2003年作品

Music

  1. Suspeita
  2. Sertão
  3. Sereno
  4. Espraiado
  5. Música Profissional
  6. Chorinho B
  7. Bambuí
  8. Bosco
  9. Aqui Dá Tudo Certo
  10. Seu Dario
  11. São Pedro da Aldeia
  12. Afro

 まず最初に言っておこう。このアルバムは素晴らしいので、是非にも聴いてみてもらいたい。ワールド・ミュージックを聴く人なら、必ず聴くべきアルバムである。以上終り。それだけで良い。

 が、それでは紹介にならないので、このアルバムについて少しく記してみることにしたい。

 表題がアフロ・ボッサとなっているが、いわゆるボサノバを期待して購入すると期待外れになるだろう。このアルバムを聴くと、ラテンの要素もボサノバの要素も感じるけれども、どれとも違う彼ら独自の音楽に昇華していると言ってよいだろう。

 イパネマスはウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)とネコ(Neco)のグループ。ウィルソンはパーカッショニスト。ネコはギタリストだ。

 Wikipediaの記述によると、ウィルソン・ダス・ネヴィスは重要なスタジオ・ミュージシャンでサラ・ヴォーン、トゥーツ・シールマンス、エリス・レジーナと共演しているようだ。Wikipediaには、もっとたくさんのミュージシャンと共演したと書かれているが、ここでは私が知っているミュージシャンだけをピックアップしたのである。いやはや、こんな大物と共演しているのなら、彼の実力は折り紙付きというものだ。

 ネコのことは良く判らないのだが、同様に素晴らしいスタジオ・ミュージシャンだと勝手に思っている。

 彼らは、Os Ipanemasの名で1964年に最初のアルバムを出し、残念ながらその後は活動を停止してしまった。二枚目のアルバム「The Return of the Ipanemas」を発売したのが2001年。そして、私の最高に気に入っているこの「Afro Bossa」を発売したのが2003年である。この活動休止期間の間は、二人とも先に挙げた大御所達のためにプレイしていたのだろう。

 長すぎる活動休止期間が惜しまれるところである。

 あのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ( Buena Vista Social Club)のアルバムと映画の発売、公開が1990年代の最後の数年だから、イパネマスの活動再開も彼ら老ミュージシャンたちの活躍に触発されてのことだったのかも知れない。

 スタジオ・ミュージシャンとして、それだけのキャリアを重ねた彼らが録音したアルバムだから、特定のジャンルに収まらないのも無理はない。

 再結成後というべきか活動再開後というべきかは分からないのだが、イパネマスは2001年以来数枚のアルバムを発表しているのだが、私はこのアルバムが最も好みである。中でも、打楽器の面白みを最高に楽しめる最後の曲「Afro」が秀逸である。キューバの音楽を聴いていると、アフリカ土着の音楽そのものに聞える楽曲に触れることがある。この曲はそれらともまた違うアプローチなのだが、しかししっかりとアフロになっている。より洗練されていると言うべきだろうか。ブラジルの民族楽器ビリンバウの響きが楽しめる「Espraiado」も素晴らしい。独特の疾走感のある曲調だ。

 その他の曲もどれも高い水準の曲ばかりで、流して聴くとあっという間にアルバムを聴き終えてしまう。凄いアルバムである。

 この記事を書くためにAmazonで調べていたら、このグループの最初の作品「Os Ipanemas」が販売されているのを見つけて購入してしまった。最近、Amazon Music Unlimitedで音楽を聴くことが多くなってCDを買う枚数が激減したのだが、最近また増え始めている。このウェブ・ページを書き始めたからかな。

The Ipanemas / Afro Bossa

評価 :5/5。

2003年作品

 このCDを初めて聴いたとき少し驚いた。他の音楽と比較するのがむずかしい、独特な、ジャンル分けの難しい、しかし爽やかで寛げる優しい音楽がスピーカーから流れ出したからである。アルバム・タイトルから「ボサ・ノバ」か、と思えばそうではない。リズムは「ラテン音楽」に近いが、メロディーが違う。このCDではまさに「アフロ・ボッサ」としか表現のできない独自の音楽世界が創り上げられているのである。現在の私はそう結論付けてゐる。

 このCDは全体的に水準が高いのだが、特に12曲目が凄い。打楽器の音の洪水。アフリカ風の歌声。スチールパンの音。全てが混沌として混り合い、まさに「アフロ」というべき楽曲に仕上がっているのである。

 休日の午後にコーヒーを飲みながら、庭でも眺めつつ聴きたい、そんな作品である。

 このCDは現在は新品が流通していないようなので紹介するのをためらったのだが、やはり、純粋に自分が好きな音楽を紹介したいと思うので今回はこれを掲載することにした。ザ・イパネマズのCDは他にも入手しやすいものがある。どれもよい出来だと思うので、入手しやすいものから試してみることも良いと思う。

(註)これは平成20年に発表した文章に一部手を入れたものです

Gipsy Kings / Luna De Fuego

評価 :4/5。

1983年作品

 Gipsy Kings のメジャー・デビュー前の作品が、きのう紹介したAllegria とこの Luna De Fuegoである。

 この2枚は、ギターと歌(カンテ)と手拍子(パルマ)だけとうふ、非常に素朴な編成で演奏されており、メジャーになった後よりも純粋な形でジプシー・キングスの音楽が楽しめる。

 Allegriaほどの名曲揃いではないが、手元に置いておきたい一枚である。

Gipsy Kings / Allegria

評価 :4.5/5。

1982年作品

 このアルバムと「Luna de Fuego」は、ジプシー・キングスの世界デビュー前の作品だ。そのため、後のCDに同じ曲が異なる録音で採録(再録?)されていたりする。
 しかし、だからと言って、このアルバムに価値が無いわけではない。いや、むしろ逆である。メジャー・デビュー後のサウンドように、ドラムや電子楽器の肉付けは無い。聴いた感じでは、一発録りで作られたような録音で、曲の間が掛け声でつながっていたりするけれど、それだけに彼らの土臭い情感が生で伝わってくる。
 サウンドは素朴で、かき鳴らすギターとパルマ(手拍子)と独特の節回しのカンテ(唄)、そしてトニーノ・バリアルド奏でるギターの旋律。これだけで出来上がっている。これらが渾然一体となって、御機嫌な音楽空間を創り上げているのだ。

 そして、なにより曲が良い。Pena Penita、Allegria、Djobi, Djoba、Un Amor、Pharaonと、名曲が目白押しだ。

 私が、UK版のCDを特に薦めるのは、国内盤「ジョビ・ジョバ」や米国盤「Allegria」では、「Allegria」と「Luna de Fuego」を一枚に編集しているため、当然一枚のCDには全ての曲が収まりきらないために、「Requerda」や「Pharaon」などの曲がカットされてしまっているからだ。ジプシーキングスの本当のファースト・アルバムが完全な形で聴けるのが、英国盤なのである。

 また、後にChico & the Gpysiesを結成するChico Bouchikhiが在籍していることも特筆すべきだろう。

 このアルバムはジプシー・キングスの原点なのである。

(註)この文章は2005年にアマゾンのレビューに投稿した私の文章に一部手を入れたものです。